【本屋大賞】おもしろいのは「大賞」だけじゃない!「2位」の傑作小説に注目
今年(2015年)の本屋大賞は上橋菜穂子氏の「鹿の王」に決まった。
発表の翌日から、街中の書店が、入口近くに大賞作品を置いて宣伝している。書店が大賞作品を大々的に宣伝するのは毎年の光景だ。多くの人が買って、多くの人が絶賛する。これもまた、毎年の光景だ。
しかし、大賞作品に一歩及ばなかった「2位」の作品だって、もっと評価を受けてよいのではないだろうか。今回は本屋大賞2位の作品の中から、紛れもなく「傑作」といえる作品を2つ紹介したい。
映像化不可能と言われた壮大なスケール!『ジェノサイド』
※画像はスクリーンショットです。
2012年本屋大賞2位。実写化が絶対不可能と言われている高野和明氏の作品だ。2001年に「13階段」で江戸川乱歩賞を取ってデビューした作者は、その10年後にこんな傑作を世に送り出した。
病気の息子を抱え、治療費を稼ぐために民間軍事会社の傭兵として戦うジョナサン・イエーガー。彼は極秘任務によって、内戦状態にあるコンゴ民主共和国のジャングルに潜入する。
一方、日本で創薬化学を専攻とする1人の大学院生・古賀研人。彼はある日、急死した父親の研究を継ぎ、彼の遺品である計算ソフトを使って新薬開発に挑戦する。
全く関わるはずのない2人が、物語が進行するにつれて1つの関係を持つようになる。
この作品が実写化不可能と言われる所以は、スケールの壮大さにある。物語で関わってくるのは、コンゴ民主共和国の武装勢力、アメリカの大統領、日本の大学生、ポルトガルの名医だ。
「人類全体に奉仕する仕事」とだけ伝えられた、とある極秘任務。徐々に明らかになるその詳細は驚愕の内容であり、内戦の様子なども非常に緊迫したものとして描かれている。
長い作品であるが、一度読み始めたら一気読みすること間違いなしの作品だ。
●高野和明『ジェノサイド』(角川書店)
映像化が相次ぐ新たな警察作品『64』
※画像はスクリーンショットです。
2013年本屋大賞2位。「クライマーズ・ハイ」でマスコミを、「臨場」で警察を描いた横山秀夫氏が、マスコミと警察両方の狭間で戦う男の姿を描く。
主人公は県警の広報官を務める三上。彼の視点から、新聞記者vs.警察、警務部vs.刑事部という2つの戦いを描かれていく。
交通事故の加害者氏名を匿名にした警察発表に対し、詳細な情報開示を求める記者たちは強く反発する。三上は記者を納得させるために情報開示を求めるが、警務部は情報開示を躊躇する。三上は記者と警察関係者との間で板挟みになる。
そんな状況で起こる2つの事件。
1つは三上の娘の失踪、もう1つは誘拐事件である。娘が失踪する焦燥の中で、県警内部では誘拐事件を巡って警務部と刑事部が対立し、彼はさらなる戦いに挟まれることとなる。
警察やマスコミ内部の軋轢が主となっている作品で、刑事ドラマ好きやマスコミに興味ある方にはたまらないだろう。
64は本屋大賞にノミネート後、映画版とドラマ版両方で実写化が決まった。映画版は来年公開予定、ドラマ版は現在NHKの土曜ドラマで放送中。
※2015年現在の情報
ドラマ版では、広報室の置かれている状況や記者が詳細な警察発表を求める背景の説明はかなりカットされているので、警察組織の細かい説明や背景をしっかり知りたい方は原作を一読されることをおすすめしたい。
●横山秀夫『64(ロクヨン)』 (文藝春秋)
本屋大賞2位の本にも傑作が存在している。本屋大賞作品だけに注目が行きがちであるが、ノミネートされた他の作品にも目を向けてもいいのではないだろうか。