【日経新聞を読み解くコトバ】「異次元緩和」って何が“異次元”なの?
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日経新聞をスラスラ読めるようになりたい。
そんな学生のために、慶応商学部で学ぶ現役大学生が週1で図書館にこもって文献を漁り、「よく聞くけど意味は知らない経済・金融用語」を自分の言葉でふわっと解説するコーナーです。
今回取り上げるのは「異次元緩和」。異次元異次元言うけどいったい何が“異次元”なの!? その疑問を解決します。
■異次元緩和とは?
「異次元緩和」とは、2013年4月に日銀が発表した「量的・質的金融緩和」の通称です。
ざっくり言うと、2%の物価上昇率を目標として
- 「資金供給量(マネタリーベース)を2年で2倍にする」などの量的緩和
- 「長期国債の平均残存期間を2倍にする」などの質的緩和
を行う金融政策です。
「マネタリーベース」とか「平均残存期間」とか、なにやら意味の分からない言葉が入っていますが、ここでは「2倍」という数字に着目してください。
経済や金融において「2倍」は明らかに異常な数字です。乱暴な例えですが、消費税が1.6倍(5%→8%)になっただけで日本の景気は急減速しました。一国の規模のおける「2倍」は相当な倍率なのです。
つまり「異次元緩和」の“異次元”とは、「量・質両方で『2倍』を掲げる従来とは次元の違う規模の金融緩和」という意味です。
■異次元緩和なんのため?
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さて、そもそも何の目的で異次元緩和を断行する必要があったのか。
それはもちろん、日本の景気を良くするためです。
さかのぼること2012年。日本の景気は、円高や世界金融危機や東日本大震災といった数々の打撃を受けて停滞していました。
そんな窮地をなんとかするため、同年12月に発足した安倍政権が掲げたのが「アベノミクス」。そして、その政策の3本柱の1本目となったのが「金融緩和」です。
日銀はアベノミクスに呼応する形で2013年4月から異次元緩和に乗り出しました。
■異次元緩和どうやって?
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じゃあ日銀はどんな手段で異次元緩和を行い、そしてそれがどんな風に景気回復につながるのでしょうか。
この政策において日銀はお札をどんどん刷って、民間銀行にどんどん供給します。もちろんタダでお札を供給しているわけではなく、国債などの買い上げという手段(買いオペ)を用います。
そうすると、民間銀行の手元にはどんどんお札が積み上がることになります。そして彼らにとって、手元にお金が余っているということはそのお金を誰かに貸す必要が出てきます。
なぜなら、貸さないと「宝の持ち腐れ」だから。「なるべく多くのお金を貸してなるべく多くの利子を受け取る」ことを生業としている銀行にとって、余っているお金は貸さなきゃ損なのです。
一方、銀行からお金を借りる立場にある企業はどうでしょう。
当時の企業は円高や不景気ですっかり守りに徹するようになっていました。当然、「借金してでも投資をする」なんて自分からリスクを被りにいくようなことは避けたい。
しぶる企業にお金を借りてもらうためには、銀行側が利率を下げてあげるしかありません。すると企業は「こっちが払う利子が少ないなら、お金借りて新しい事業やってみようかな」「新しい工場建てようかな」という方向にだんだん傾きます。
こうして日本の経済が動き出します。
新しく事業を始めるには人を雇い、製品開発し、広告を出さなければなりません。新しく工場を建てるには建設会社に発注し、従業員を雇い、それを管理しなければなりません。いろんな業界に資金が流れ、経済が活気づきます。
そして、「日銀が異次元緩和する→日本経済が活気づく」という一連の流れは、国内外の投資家にとって「十分予見できること」です。
近い将来日本企業の業績が上がるというなら、それに投資しない手はありません。投資家たちは我先にと日本企業の株を買い、日本の株価は上昇します。
■異次元緩和の行方
現在、日本の株価は過去最高の水準へと上昇し、一部の企業で賃金の引き上げも始まって景気改善がはっきりと目に見える形になってきました。
東証1部終値の時価総額、591兆円余で過去最高に バブル期以来25年半ぶり更新(5/22、産経新聞)
これからどうなるのでしょう。政府と日銀が思い描くとおり、物価上昇→企業収益改善→賃金上昇という流れが実現するのか。日銀の金融政策の行方に注目です。
さてさて、今回ちゃんと触れられなかった「物価」の話は次回いたしましょう。
参考資料
日本経済新聞社『金融入門』(日本経済新聞出版社)
川西諭、山崎福寿『金融のエッセンス』(有斐閣)
有馬秀次「金融大学」