就活が後ろ倒しになったからこそ、考えなきゃいけないコト【霜田明寛インタビュー③】
現役大学4年生である筆者が就職活動をするなかで抱いた「はたらくってなんだろう?」という疑問。その答えに近づくためには、実際に社会ではたらいている方々に話を聞いてみるしかない!
こうして始まったインタビュー企画【はたらくってなんですか?】。
第1弾で取材したのは、ライター、大学での就活講座など、様々なメディアでご活躍されている霜田明寛さんだ。
霜田さんは出版企画コンペイベント「出版甲子園※」をきっかけに、早稲田大学在学中より書籍執筆をはじめ、2009年『パンチラ見せれば通るわよっ! テレビ局就活の極意』で文筆家デビューを果たす。
※出版甲子園:学生対象の出版企画コンペティションイベント。毎年全国の学生から「本にしたい」企画を募り、審査とプレゼンの経て優秀な企画は書籍化される。
ジャニーズJr.に憧れるも大学1年生の時に夢破れ、次はアナウンサーに憧れるも最終面接で夢破れ、といった自身の経験から、「マスコミ就活」をテーマにした著作を2作書かれている。
フリーライターなどを経て、2013年よりトレンダーズ株式会社に所属し、『ソーシャルトレンドニュース』の編集長を務める。またマスコミ就活対策のトークライブ『就活エッジ』や、早稲田大学生協の就活講座で講師も担当されている売れっ子文筆家だ。
今回は最後に、これからの就活の行方、そして霜田さんにとっての「はたらくとはなにか」について伺った。
≪霜田明寛さんインタビューシリーズ≫
・ 「今の仕事」編
・「僕の就活」編
「就活について考える」のも後ろ倒しになってはいけない
Q.著書2作目『マスコミ就活革命』を出版されたのが2011年ですが、それ以来、就活全体で変わったことはありますか?
霜田さん:
今年から就活が後ろ倒し・長期化しましたよね(2016年新卒採用から就活解禁が3カ月ほど後ろ倒しになった)。
急にスケジュールが変わったけど、後ろ倒しの結果、就活について考える期間が長くなることによっていろんな企業を見られるし、かつ見ざるを得なくなる。まだ志望企業の募集が始まっていないことで、いろんな企業を見なくてはいけなくなったのはプラスだと思います。
就活生は自分の思い込みで就活を進めたり、企業を選んだりしてしまう部分がある。そうじゃなくて「いろんな世界があるんだ!」というのを知ってから就職先を選べるようになったのは良いことじゃないかなと。
あと、今までの短期決戦だと、早い時期に内定を取れないことに対して焦りがちになっちゃいますよね。そうなると「就職できればいいや」みたいな考えになってしまうけど、長期化したら焦る必要もなくなります。
僕らのころは恥ずかしかったけど、今年は夏にスーツ着るのは恥ずかしいことではないでしょう? 周りと比較して、そのプレッシャーのせいで選択を間違える就活生がいるから、焦らずに就活できるのはいいなと思います。
就活は横並びの競争ではなく、自分がどれだけフィットできる企業に行くかが大切なので。
そういえば、世の中の流れが変わってきたんじゃないかと思った出来事がありました。
僕が5年前に出版した最初の就活本『パンチラ見せれば通るわよ!』が、この前Amazonで完全に売り切れていて、中古品が数千円単位の高額で取引きされていたんです。出版したころより、今のほうが受け入れられている気がして。
▲デビュー作『パンチラ見せれば通るわよっ! テレビ局就活の極意』(左)と、出版甲子園決勝大会でプレゼンをする霜田さん(右)
自分が就活していたころは「どうして僕はアナウンサー試験に受かんなかったんだろう」って死ぬほど考えてきたし、内定者と何が違ったのかも考えてきた。
それを人一倍考えて分析することに自信があって書いた本でした。
『パンチラ』を出版した当時の世の中は「完璧に成功した人が成功談を語る」みたいな風潮がありました。
でもその後は、前田敦子が過呼吸になってたり、指原莉乃みたいに1回負けた人がトップに立ったりする様子がウケてる。
「とてつもない成功者からのアドバイスより、負けたり苦労したりしている人のアドバイスの方が、自分たち凡人には取り入れられるんじゃないか?」という時代になっている気がするんです。
Q.テレビ朝日で『しくじり先生※』という番組もありますよね。
霜田さん:
そうそう、まさに1冊目の『パンチラ見せれば通るわよ!』は「しくじり先生」的なフォーマットなんです。
「俺は最終まで行ったけど内定できなかった。だから……俺みたいになるな!」という本です(笑)。だから今の大学生のほうが読んでくれているんじゃないかなと。
※テレビ朝日の人気番組『しくじり先生 俺みたいになるな!!』では、堀江貴文さんや浅田舞さんなど「人生の挫折を味わった人たち」が自分のエピソードをまじえて講義をしている。
Q.就活が後ろ倒し・長期化したことで問題はありますか?
霜田さん:
今年3月の解禁日に就活生の取材をしていたとき、就活が後ろ倒しになったせいか「今日はじめて就活のこと考えました」と言う人が結構いました。
それは問題かな。後ろ倒しになったから就活のことを考えるのが後ろ倒ししていいわけではありません。
僕の場合、大学1年生の新歓のときに行ったのが、サークルじゃなくて就職の説明会でした(笑)
別にそれからずっと就活していたわけではないんですが、「2年後にみんなこうやって焦るんだ」と気づけたし、それはそれで良かったと思ってます。
「就活について考える」というのは、別に面接のテクニックのことを考えることじゃなくて、自分の人生について考えること。
大学3年生の終わりの3月に、急に自分のしたいことや人生のこと考えても、それは間に合いません。後ろ倒しになったことで「そこから就活のことを考えればいいや」というのは怖いと思ってます。
はたらく=感覚をマヒさせないままお金をもらう
Q.霜田さんにとって、「はたらく」ってなんですか?
霜田さん:
僕の中での理想の働き方、という意味で言うと、「感覚をマヒさせないまま、お金をもらうこと」だと思っています。
「感覚のマヒ」というのは、たとえば証券会社の人が「これは絶対に儲からない株だな」と思っていても、よくわかってない高齢者向けに、儲かる風に売ったりするようになっていくようなこと。
新入社員のときは、そこに抵抗感があったにも関わらず、だんだんと忘れていって、その葛藤を抱えなくなっていくんですよ。
会社っていうのは、感覚をマヒさせる仕組みとしては優れているんです。
例えば、新卒で一気に社員を採って「さあMVPを取りましょう!」と煽る。MVPとることが正義になって数字を追ってばかりになると、世の中のためになるようなモノを売っているかどうか分からなくなっちゃう。
世界が見えずに、自分の周囲で正義とされていることを正義だと思い込んでしまう。これって「感覚のマヒ」ですよね。
そうなってしまうのは「下品」だと思います。
僕は下ネタをたくさん言ってるけど、人として下品に生きていないという自覚はあって。それは、自分がよくないと思うことや、誰かを騙してお金を稼いだり、単に数字を追ったりということをしてないからですね。
Q.「会社に所属しながら、他の仕事もやる」というのが霜田さんのはたらき方と思いますが、はたらき方の完成形はまだ見えないですか?
霜田さん:
完成形は全然わかりません。
会社に入ったときも今のようになっているとは思っていなかった。就職した時もそうだったけど、その都度、「面白そう!」という方向に飛んでいるだけで、目先の目標はあっても「こういうはたらき方をしたい」というのは実はないんです。
はたらき方って、手段であって、それ自体が目的ではないですからね。
会社には週3で来てたときもあれば、今は週5で来てる。自分がやりやすくするために、その都度ベストな選択をしています。
Q.霜田さんが今後やりたいことはなんですか?
▲『ゲスアワー』
霜田さんと作家・ブロガーのはあちゅう(伊藤春香)さんが「ゲスな会話を繰り広げる」YouTubeチャンネルだ(スクリーンショット)。
霜田さん:
よく『ゲスアワー』で儲かってるんですか、と聞かれるけど、それで儲けているわけではないんです。
観た人が『就活エッジ』にも来てくれるような間接的な効果はあるんだけど、野望としてはラジオで『ゲスアワー』ができたら良いなと考えていて。
僕がはあちゅうさんとしゃべる、という日常的な行為にコンテンツ的価値が付いて、お金を払ってくれるスポンサーなりラジオ局なりがついてくれる状況になると熱いなって思います。
あと、とりあえず本を売らないと! 3作目を今書いているんですけど、それをちゃんとヒットさせたい、という目先の目標はあります。
今年9月出版の予定で書いていて、テーマは就活から離れようと思ってます。まだ内容は言えないんですが(笑)
編集の都合上カットされてしまった部分だが、強く印象に残った言葉がある。霜田さんの 「就職できなかったからといって人生が終わるわけじゃない。就活失敗したからって死ねないじゃん(笑)」という言葉だ。
ライターであると同時に一就活生として臨んだ今回のインタビュー。適度に肩の力が抜け、でも背筋はシャンと伸びたように思う。
取材・文/信太 秀斗