「バケモノの子」だけじゃない!「人と獣」の物語がアツい『獣の奏者』【今もう一度読みたい!児童文学シリーズ②】
■今、獣が熱い!
金曜ロードショーで放映された「おおかみこどもの雨と雪」を始め、現在絶賛放映中の「バケモノの子」と、今、人と獣の作品が熱い!というわけで、今回は「国際アンデルセン賞」の作家賞を受賞した上橋菜穂子さんの「獣の奏者」を紹介。
(※画像はAmazonより)
この作品は「闘蛇編」「王獣編」「探求編」「完結編」の本編四冊と外伝二冊の単行本で構成されている。巻数は多く見えるが、古代の日本を思わせる独特の異世界ファンタジーに引き込まれ、どんどん読み進められる。児童文学に分類されるが、その枠組みを超えて、子供も大人も楽しめる作品だ。
■獣と人は共存できるのか…?!
人と獣をテーマとした物語では、共存、敵対、不干渉などなど様々な関係性が描かれる。「獣の奏者」では、主人公の少女と人に慣れようとしない孤高の獣――王獣との関係と、権力のために獣を利用しようとする人々と哀れな獣たちの関係とが語られている。
その中で注目してほしいのは少女エリンと王獣との関係。母親と同じ獣の医術師を目指すエリンの好奇心旺盛な様と、鋭い洞察、明晰な思考を追う楽しさがこの本の一番の魅力だ。
王獣というものは元々野生の獣であるが、人間の都合で攫われた王獣の子は人間に飼われることになる。しかし、野生の王獣と飼われている王獣とでは力に圧倒的な差が生まれてしまう。野生の王獣を見たことのあるエリンはその不思議を抱いている時に、一匹の野生の王獣を世話することになる。
最初は警戒心の強い王獣が心を開いていく様をエリンと共に見る喜びは、あたかも自分も王獣と仲良くなれたような気がする。野良猫と徐々に仲良くなる、そんなシチュエーションを夢見たことはないだろうか?そんな夢を抱いたことのある人には、ぜひエリンと一緒に王獣と触れ合う感覚を文章を通じて味わってほしい。
■注目はココ!
物語として特に印象深いのが、王獣と距離を縮めていく過程を描く場面である。エリンは王獣との意思疎通のため、竪琴で創意工夫を凝らしたり、王獣に食事をさせるために様々な分析をしたり、また、自分に慣れてもらうために檻を挟んで王獣と晩を過ごしたりするなど試行錯誤を繰り返す。先程も書いたように、野生の動物と徐々に距離を狭め、そっと触れ合えた時の感覚。なかなか日常生活ではないシチュエーションだが、ちょっとやってみたい。そんなエリンと王獣との過程がぎゅっと詰まっている第二巻「王獣編」は、特に注目してもらいたい一冊だ。
■NHKで「獣の奏者エリン」としてアニメ化!
(※画像はスクリーンショットです)
2009年にはNHK教育テレビ放送50周年記念作品としてアニメ化されている。原作「闘蛇編」「王獣編」を全50話で放送。琴の音色など映像でしか出せないところを、原作の雰囲気を壊さず見事に表現している。独特の世界観に、色や動きがつくことで、本の世界観がもっと広がっていく。興味のある人はぜひ原作読後に。
人と獣の物語が好き、最近ちょっとそういった本に興味を持っている…どんな理由でも全然大丈夫。
夏休みを利用して、異世界ファンタジーの世界観に浸ってみてはいかがだろうか?
文/わにわに