【インタビュー】Mediumが生み出す新たな価値「ストーリー」とは?
いまや世界中で利用されるようになったTwitter。自分がいま見ていること、聞いていること、思っていることを140字以内のテキストにして発信する空間です。
そんなTwitterのアンチテーゼとも言える新しい空間を、Twitter創業者のひとりであるエヴァン・ウィリアムズが生み出しました。
それが、Medium(ミディアム)。ユーザー一人ひとりの「ストーリー」を共有しあえるオンラインプラットフォームです。
※Mediumの画面は動画配信当時のものです。
白と黒を基調とした、シンプルで美しいデザイン。不要な装飾もわずらわしい広告もありません。
この空間を行き交う記事は「ストーリー」と呼ばれます。Twitterの140字では表現しきれない、書き手自身の物語ということ。
ユーザーはMedium上でストーリーを書いて投稿したり、タイムラインに流れてくる他人のストーリーを読むことができます。
さらに、気に入った文章にハイライトをつけたり、その部分を引用してTwitterでシェアすることも可能。文章の大切さに立ち返りつつ、先進的な機能も豊富に実装されています。
一貫した哲学のもと設計されたというMedium。この革新的なサービスを日本に広めている、Medium Japanブランドアンバサダーの坂田一倫さんにお話を伺いました。
Mediumは、書き手や読み手同士をつなぐネットワーク
―まずはシンプルにお伺いします。Mediumとは何ですか?
坂田さん:
一言で表すと、「Platisher」(プラティッシャー)という風に言われていますね。これはPlatformとPublisherを組み合わせた造語で、ストーリーの発信(Publish)を支えてくれる環境(Platform)という意味です。
ただ僕は、Mediumはネットワークだとも思っています。書き手と読み手、書き手と書き手、読み手と読み手をつなぐ空間という。
―「読み手と読み手をつなぐ」というのは?
坂田さん:
Medium上でつながることによって、相手がどういう記事を気に入っているとか、お互いの関心ごとを共有しあえるんですよ。だからストーリーを書かずに読むだけでもよくて。
たとえば「このストーリーがよかったよ」とか「この箇所が特によかった」とか、そういうことを共有しあえるネットワークなんです。相手のフォローリストを見たり、レコメンド(Recommend)やハイライトを見たりという形で。
仮に「桃太郎」というストーリーがあったとしましょう(笑)。そしてAさんという人が、そのストーリーをレコメンドしたとします。
そのときMedium上では、Aさんが「桃太郎」というストーリーをオススメ(Recommend)していることが、AさんとつながっているBさんのところに表示される。
さらに、そのなかの「おばあさんが桃を割ると 元気の良い男の赤ちゃんが出てきました」という箇所が、なぜかAさんの印象に残ってそこをハイライトしたとします。
すると、そのストーリーをBさんが読んだときに「Aさんはココが印象に残ったんだ」ということがわかる仕組みになっています。
誰かのストーリーを通してその人が見ている世界を見る
Photo by Ludovic Bertro
―坂田さんが「面白い」と思うのはどんなストーリーですか?
坂田さん:
なんだろうな、より個人的なものが好きですね。個人の人格が垣間見えるもの。その人の気持ちや強いて言うならば人間らしさが表現されているも
僕は共感しやすいものがすばらしいと思うんです。それってつまり引き込む力があるってことじゃないですか。単なる情報とはまったく違う。
たとえば、ニュースで「~という事件が起きました」っていうふうに事実を客観的に伝えるものと、それを体験した当人が一人称で語るものだと、感じるものって違うと思うんです。
たとえば、佐藤浩市さん主演の『誰も守ってくれない』っていう映画があるんですけど、その作品の面白さは加害者の家族の「ストーリー」にスポットを当てているところなんですよ。

▲映画『誰も守ってくれない』(2009年)
一般的にメディアで報道されている情報、消費されるニュースっていうのは、被害者と加害者の関係しかないことが多い。「窃盗されました」とか、「殺害されました」とか。
でも、この映画では、手を下した加害者の妹が指をさされて「お前が悪いんだぞ」っていう目で見られる。直接関与していないのに、同じ血が通っているっていうだけで加害者のサイドとして扱われるわけですね。
メディアって、加害者の家族にすごくバイアスをかけることがあるんです。「どういう生活をしていたんですか!」「なんでそうなったんですか!」っていうような取材をして、その家族の生活を崩壊させてしまう。
そういう報道被害から加害者の家族を守るのが刑事の仕事でもあって、それを佐藤浩市さんが演じています。
ここで描かれているのは、加害者の家族っていう視点と、それを守る刑事の視点です。ふつうメディアがスポットライトを当てないような、その人の主観で語られるストーリーなんです。
もちろん主観には正しいことも間違っていることもあるでしょう。でもそれ以前に「あ、この人はこういう観点で見てるんだ」っていうのが伝わってくると、何か動かされるものがあると思うんです。
それがきっとストーリーのもつ力なんじゃないかなと。
Mediumでは、そういったストーリーを通してほかの人の見ている世界を見ることができます。
たとえば、今年の6月にアメリカで同性婚が合法になりましたよね。
あれを推し進めている団体の方が書かれた記事があるんです。その方自身も同性愛への差別を経験していて、そういう人が語るものってやっぱり違う。
たったひとりの意見なんですけど、そのストーリーには人を動かす力があると感じました。これって客観的なニュースにはできないことなんですよね。
媒体の存在さえ忘れさせる
―Mediumは、書き手や読み手にどんな新しい体験を与えてくれますか?
坂田さん:
書き手にとっては、書くことだけに集中できるという点です。Mediumでは洗練された書式設定がデフォルトで決まっていて、無駄な装飾を考えなくていい。
Wordやブログの編集画面では文字サイズや行間など細かい設定をする必要があったりします。でもMediumではそれを意識せずに書けて、しかも美しく仕上がる。

▲Mediumの記事編集画面。余計な情報やボタンは一切なく、書くことだけに集中できる設計になっている。
そして、それはもちろん読み手にとっても美しい。
書くこと、読むことだけに集中できるという環境を実現したのがMediumです。
―テキストとの向き合い方が、ブログやSNSよりも本に近いなと思います。
坂田さん:
そうですね。 それはテキストだからこその、文字だからこその力だと思っています。
誰かに書かれた文字を、人は読み、感じ、動かされる。文字って人間の根源的なコミュニケーションの形態なんです。これは何千年も変わらず、現代に受け継がれています。
それを実感してほしいというのが、Mediumの哲学です。実は結構哲学的なサービスなんですよ。だから引き込まれるんです。
記事を読んでいる感覚ではなくて、文字を読んでいる、ただ目の前にあるものを読んでいるという感覚をMediumは感じさせてくれる。
媒体の存在さえ忘れさせて、本来の文字がもつ力やストーリーがもつ力を感じることができるんです。
後編では、「時代への問題提起としてのMedium」というテーマでお話を伺います。
※Mediumで日本語記事を読むにはこちらから。
>Medium – Japanese Official
取材・文/大山 慧士郎