【インタビュー】Twitter創業者が繰り出す、Mediumというアンチテーゼ
Twitter創業者が新たに生み出したオンラインメディアプラットフォーム「Medium(ミディアム)」。
ソーシャル上で「ストーリー」と呼ばれる記事が行き交い、読み手や書き手同士をつないでくれるネットワークです。
※Mediumの画面は動画配信当時のものです。
洗練されたシンプルなデザインと、こだわりぬかれた設計思想。
理解が追いつかないほど革新的なこのサービスについて、Mediumを日本に広めているMedium Japanブランドアンバサダーの坂田一倫さんにインタビューをしました。
後編となる今回は、「坂田さんとMediumの出会い」に始まり、さらには「時代への問題提起としてのMedium」というテーマを深堀りしていきます。
※この記事は、「【インタビュー】Mediumが生み出す新たな価値「ストーリー」とは?」の後編です。
Mediumとの出会い
―Mediumの「アンバサダー」として、坂田さんはどういうことをしているのですか?
アンバサダーの役割は、おもに翻訳ですね。各国で書かれた良質なストーリーを、世界に10名いるアンバサダーが自国の言語に翻訳して国内で紹介しています。
あとは自国でMediumのファンを増やすこと。それとグロースハックです。
僕が日本のアンバサダーとしてやっていて、6名のボランティアといっしょに活動していますね。
―坂田さんはどのようにMediumと出会ったのですか?
坂田さん:
もともと英語で記事を書きたかったんです。僕は帰国子女なので、英語を忘れないようにと。
あと、もともとやっていた日本語のブログを英語圏にも流通させて、その反応を見たいという願望がありました。
そこで、Mediumという流通ネットワークに乗っけられればそれを実現できるだろうと思って使い始めました。
それをたまたま見てくれたMediumの方から、「Medium Japanとして一緒にやらないか」っていうふうにお声がけいただいて、いまにいたっています。
―Mediumの考え方のどういったところに共感していますか?
坂田さん:
やっぱり、「言葉」を大事にしていて、その哲学がそのままサービスに反映されているところです。
最近のSNSって非言語コミュニケーションが多いですよね。写真とかスタンプとか。たしかにそのほうが伝達スピードは速いんですけど、それってある意味悲しいなって思っています。
せっかく言葉を喋れるのなら、言葉のほうを大事にしたい。CMのキャッチコピーとか、「ハッと動かされる言葉」ってあるじゃないですか。
僕としてはもっと文字を大事にしていきたい。自分で何かを表現するための仕組みとして、文字は欠かせないと思っているのでMediumに共感したというのがありますね。
日本語の美学に気づかせてくれる
Photo by eiko on flickr
―Mediumが日本にもたらすものは何だと思いますか?
坂田さん:
日本人って、もともと言葉遊びが好きなんですよね。俳句だったりとか短歌だったりとか。言葉を扱った美学が洗練されている。
日本語って世界で一番難しい言語なんだそうです。
漢字、カタカナ、
だからこそ生まれる美学があると思うんです。そこにMediumは気づかせてくれる。
日本語を使ってどうやって表現するかというところに、日本人として立ち戻ることができるんです。
どこを漢字にしてどこをひらがなにするかとか、文章をどういう体裁にするかだとか、リズムとか段落をどう分けるかだったりとか。
僕は別に古い人間じゃないんですけど、そういった部分が好きなんです。それこそ中原中也の詩や夏目漱石の文学が好きですけど、
あれって面白くないですか? 五・七・五でサラリーマンの苦労を表すっていうのが。まさに日本人らしい。それを維持したいなと思っていて。
Mediumはそういうものをもたらしてくれるんだと思うんです。言葉に対する美学のようなものに気づかせてくれる。
テキストでしか伝えられないことがある
―動画や写真を誰でも発信できる時代に登場したMediumが、あえてテキストに立ち返っているのはどうしてですか?
坂田さん:
どんなにコミュニケーションの形態が変わっても、
自分の気持ちや言いたいことを、写真やスタンプみたいな非言語的な情報に置換するのってすごくハードルが高いんです。
プロの写真家だったら、何かを伝える写真を撮ることはできますけど、一般の人にはやはり難しい。
スタンプだって受け手によって意味が変わるじゃないですか。ポジティブな意味で使ったアイコンがネガティブにとらえられたりしますよね。
そういったミスコミュニケーションなく、的確に表現したいものをちゃんと表現するにはやっぱりテキストしかない。
だからこそ、いまこの時代にMediumが必要なんだ、というのが僕なりの答えです。
Twitterの「ライブ感」へのアンチテーゼ

▲「#花火」ツイートの推移。隅田川花火大会が開催された7/25がピークになっている(Twitter公式より)
―Twitterというのは、本来事後的な「書く」という行為のライブ感を、極限まで高めたメディアだと思います。しかし、Mediumはむしろ「事後的に何かを書くこと」に立ち返っています。これにはどういったわけがあるのでしょうか?
坂田さん:
瞬間的に生まれる情報っていうのは、消費される情報なんですよ。こういう情報にはぜったい「時系列」が加わってしまって、「これは新しい」「これは古い」というレッテルが張られるわけです。
たとえばいま僕がTwitterで、「あ、いま雨降ってるんだ。無事に着けるか心配だな」ってつぶやいたとします。
すると、僕をフォローしてくれている友達は「いま雨降っているんだ」って、そのときの瞬間的な情報として認識して、消費しますけど、5分とか10分したらもう古い情報じゃないですか。
「もう晴れてきた」って新しい情報が加わると、その瞬間に置換されてしまうんですよ。こんなふうに情報っていうのはどんどん塗り替えられていく。
でも、「ストーリー」には時系列が発生しないんです。時間を無視したもの。時代が変わろうと、ちゃんと価値が残り続けるのがストーリーなので、「いまこの瞬間に」じゃなくてもいい。
そういう考え方に回帰したのがMediumなんです。

▲Mediumを行き交うストーリーには、何年経っても変わらない価値がある。
いまの時代って、「いまどれだけ読まれたか」っていうことを気にしなきゃ苦痛になるんですよ。SNSに投稿すると、どうしてもその反響が気になってしまう。
でも、それって創造的じゃないと思うんです。
いつになってもちゃんと価値のあるものを作っていくことが、自分の生きた証になる。いずれ自分が死んだとしても自分という人格がそこにあるわけですよ。
そういうことを大事にしていくべきだと思うんです。そういった意味ではMediumは時代への問題提起ですよね。
Mediumはコンテンツに目が行くように作られています。「このストーリー面白そうだな」と感じることが出発点なんです。
―いまのところどんな人がMediumを使っていますか?
坂田さん:
いまはやっぱりテック系の方が多いですね。
でも、僕はいろんなカルチャーの人にも関わってほしいと思っています。ITとは関係ない領域の人たちにどんどん使ってほしい。
Mediumの英語のほうは結構いるんですよ。元新聞記者のジャーナリストや音楽家、喫茶店をやってる人もいます。
けど最近は面白い日本人の方がどんどん参加してくれていますね。京都のお灸屋さんだとか、就活生も書いているし。
日本語で書かれたストーリー、毎日読んでいるんですよ。
いろんな人がいます。売れようと奮闘中のアーティストとか、島で一人暮らししている人とか、世界一周旅行をしている人とか。結構ユニークな人がいるんです。
これからさらに幅広い人たちに広まってほしいです。そのために、Mediumの魅力をひたすら伝え続けます。
スマホの画面を写真・動画・短文が埋め尽くし、瞬く間に流れていく現代。
そんななか、あえて文章に立ち返るMediumは、文字とじっくり向き合うラストチャンスを私たちに与えてくれているのかもしれません。
文・取材/大山 慧士郎
※Mediumで日本語記事を読むにはこちらから。
>Medium – Japanese Official
※この記事の後編、「【インタビュー】Mediumが生み出す新たな価値「ストーリー」とは?」もぜひお読みください。