読書の秋、スポーツの秋!こんなスポーツ小説はいかがですか。
(Photo by USAG- Humphreys)
芸術、食欲、スポーツ、行楽、読書など、秋と聞くといろいろな言葉が浮かびます。要は、『過ごしやすく、アクティブになる季節』ということなのでしょう。ということで、今回はスポーツと読書を両方楽しめる、スポーツ小説をご紹介します。それって結局読書で、スポーツしてないじゃん、というつっこみはなしでお願いしますね。でも、読んだらきっと体を動かしたくなると思います。
■レースの緊迫感と、読後の切なさが胸に残ります。
『サクリファイス』(近藤史恵/著 新潮社)
この世でもっとも過酷なスポーツ、ロードレース。そこは、ただただ自転車で走りたいという純粋な気持ちと、勝利に絡む様々な思惑という、光と闇が混在する世界――。
自分が犠牲になってでもエースを勝たせるアシストと、その犠牲の上にいるからこそ負けられないエースという構図は、まさに光と闇と言えるでしょう。ロードレースという競技はあまりなじみのない人も、読んでいるうちに自然と理解できるので、十二分に楽しめます。
初めのうちは、自転車競技の魅力を徐々に知っていき、レースの描写にどきどきしたり、主人公の心中に切なくなったりと、青春スポーツ小説の醍醐味を味わえます。しかし、とある一瞬で、物語は様相を変えます。序盤から少しずつ積み重ねられてきた疑念が一気に噴き出す瞬間、ページをめくる手がとまらなくなります。サスペンスの要素とレースの疾走感でぐいぐい引き込まれていきます。
青春、スポーツ、サスペンスの成分が融けあい昇華された、異色の作品です。
■リアルな描写に、サッカーの厳しさを知りました。
『龍時』(野沢尚/著 文藝春秋)
世界へ飛び出していった16歳のサッカー少年リュウジが、様々な壁に阻まれながら成長していきます。家族関係や人間関係での葛藤も緻密で心揺さぶられますが、本書の魅力は何と言っても試合描写のリアルさです。「俺が出したそのボールを必ずゴールに叩き込め。」これは、龍時のある試合での心中です。サッカー経験のない筆者でも、自分がプレイしていたらこんな気持ちになるんだろうな、と感じさせられました。
単身でスペインへ飛び出すリュウジに襲い来る、苦難の日々。しかし、それに負けないリュウジの情熱には惚れ惚れとしてしまいます。サッカー小説は数多く存在しますが、16歳の若さで一人海外でプレイする孤独や葛藤を感じられるのは『龍時』ならではです。
■どうしようもない現実の中でも負けない強さが鮮やかに描かれています。
『イレギュラー』(三羽省吾/著 角川書店)
村が水害に遭い、仮設住宅での生活を余儀なくされたニナ高の野球部は練習もままならず鬱屈した日々を送っていました。しかし、そんな彼らに転機が訪れます。それは、私立の名門・K高との合同練習でした。
スポーツ小説にはしばしば『すごい選手』が登場しますが、ニナ高の剛速球投手コーキもその一人。やっぱりこういう選手がいるとわくわくします。コーキは決して品行方正なスポーツマンではありません。どうしようもないな現実に対して何もできい辛さから、反抗的とも思われる態度をとります。ただ、そこには一本筋が通っており、それがとてもかっこいいのです。
青春スポーツ小説という枠にとどまらず、災害というやりきれない現実がバックボーンにあり、様々なことを考えさせられる物語でもありました。それでも読み終わったときに「明日も頑張ろう!」という気持ちにさせてくれる、清々しい物語です。
■メンバー全員心がイケメン!自分も走り出したくなります。
『風が強く吹いている』(三浦しをん/著 新潮社)
運命的な出会いから竹青荘に住むことになった大学生・走は、住人たちとともに箱根駅伝を目指すことになります。ほとんどが素人というメンバーで箱根を目指すことになるのですが、個性豊かな竹青荘の住人たちが走ることに真摯に向き合うようになっていくストーリーは面白いの一言です。10人のメンバーを一人ひとり描かれていて、途中で「これ誰だったっけ?」となる心配は全くありません。そして全員、心がイケメンなんです。
最初はバラバラだったメンバーが、ひとつになり、走ることに魅了されていく姿を追っていると、自分も走り出したくてたまらなくなりますよ。
スポーツ小説の魅力は、不安や葛藤、勝利への執着や仲間への思いといった心理描写はもちろん、何もかもを取り払った先にある純粋な楽しさを教えてくれるところです。テレビで試合を見ていても選手たちが何を思い、何を考えているのかはわかりませんが、小説では描かれています。そこで面白さを知ってから、テレビで観戦をしたり、あるいは自分でやったりすると、今までよりももっと楽しめるのではないでしょうか。
文/綾乃里綾里佳