昆虫オタク女子大生が書く恋愛本!? 「恋する昆虫図鑑」著者にインタビュー!
※この記事は昆虫の画像が出てきます。
10月28日、奇想天外な1冊の本が出版甲子園から誕生するという。タイトルは「恋する昆虫図鑑 ムシとヒトの恋愛戦略」(文藝春秋)。 昆虫が大好きな女子大生が描く恋愛の解説本だ。昆虫×恋愛という普通は掛け合わされることのない2つがどのように組み合わされるのか。この本の著者である篠原かをりさんに話を聞いた。
▲現れた篠原さんは虫柄のワイシャツを着て、クワガタムシがプリントされた財布を持っていた。服装や持ち物からも虫好きがわかる。
――この本はどんな本ですか?
篠原さん(以下、篠原):人間の恋愛を昆虫になぞらえて紹介する本です。ちょっと困った人間もあまり良く思われていない昆虫も、両方親しみを持ってもらえるような本にしたいと思って書きました。
――この企画はどうやって思いついたのでしょうか?
篠原:元々昆虫の生態、特に昆虫の交尾とかが大好きで……(笑)。その昆虫好きが高じて、昆虫は人間と似てるなってところから思いつきました。
――昆虫の交尾のどういうとこが好きなんですか?
篠原:すごいんですよ! 人間って全然パターンないんですけど、昆虫って意味不明なパターンとかめちゃくちゃあるんですよ!なんであんな小さな虫があんな複雑な交尾をするのかと気になって。
クワガタ7種類にゴキブリ50匹……!? 虫にはとことん愛を尽くす!
――実際に飼ったことがある虫を教えてください。
篠原:ちょうどオオクワガタが昨日羽化して、めっちゃかわいいんです! クワガタだけで1,2,3…7種類飼ってます。 あとゴキブリとか飼ってて…すごいかわいいゴキブリがいるんですよ! マダガスカルオオゴキブリっていうこのくらいのやつ(下の写真参照)がいて、けっこう大きさ的にはいかついんです。最初は3匹だったのにいつの間にか50匹くらいになっています(笑)。
写真を見てギョッとした筆者に対し……篠原さんはゴキブリについて語っている間、終始笑顔を見せる。
――見かけが気持ち悪い虫も好きなんですか?
篠原:そうですね。見かけが気持ち悪い虫も私は結構好きで、足がたくさんあるとかトゲがめちゃくちゃあるとかが好きですね。マダガスカルオオゴキブリはそれを満たしていると思います。飼っているゴキブリは鳴くんですよ。オスはジューって音出して威嚇しているんですけど、それがかわいいなと思います!
――他にはどんな虫を飼われているんですか?
篠原:エサ用でミルワームというゴミムシダマシの幼虫やコオロギ、あとは人からの預かり物でアリが5000匹くらい。会って2回目くらいの人に急にアリを預けられちゃって……。
――それはなぜ預けられたんですか?
篠原:アメリカに行くから世話をしててほしいって。しかも冷房をつけっぱなしにしなければいけないとかで地味に面倒くさいです。この小さいのに(大体直径3~4cm)1匹1匹分かれていて、1つ1つに水やエサをやって、ちょっと地獄みたいな気分になりました。
昆虫で例えるならキリギリスかハサミムシ? ヒモと付き合ってきた恋愛
ではなぜ篠原さんは昆虫と恋愛を掛け合わせようと思ったのだろうか?
――昆虫の生態と人間の恋愛を掛け合わせるというのが今回の本だと思いますが、どうして2つを掛け合わせようと思ったのでしょうか。
篠原:昆虫の生態を見ていて、人間でもこういうやついるなと思って……。行動が人間味あふれるやつというか。
――人間味あふれるやつって例えばどういう虫でしょうか?
篠原:例えばフォツリスベルシコロルというホタルはすごいえげつないことで有名で。フォツリスベルシコロルのメスは、他の種のメスの求愛信号を真似することで他の種のオスを惹きつけて食べてしまう。どうしようもないホタルなんです。
――他の種を真似して食べてしまうんですね……。
篠原:ええ。しかも他の種を真似するという、好きでもないのに思わせぶりな態度を取るというのがオタサーの姫に似てますよね!私は「クイズ研究会」っていうオタサーにいるのでよく見かけます。
▲きれいに見えるホタルの光。しかし、裏ではえげつない生存戦略が繰り広げられている (photo by Ted Goldring)
――篠原さんは虫で例えるとどんな感じの恋愛をしましたか?
篠原:キリギリスかハサミムシですね。
――キリギリスはどんな感じですか?
篠原:動物や虫って、基本的にメスの方が強くてオスを吟味する立場になるので、オスが積極的にアプローチをするんですよ。メスは受身なんですね。でもキリギリスは、オスが交尾の際に栄養の入った袋を渡すことで、オスの方が立場的に高くなるのでメスからガンガン誘います。
――篠原さんから結構誘うのでしょうか?
篠原:そうですね。私はあまり待てない人間だと思うので、ガンガン男を捕まえに行きますね。昆虫採集に似てるなと思います。
――ではハサミムシはどんな感じですか?
篠原:交尾自体は普通なんですけど、オスは交尾の後すぐにどっか行っちゃって。メスは卵とかずっと育て続けるんですけど、せっかく卵が孵っても解放されるわけじゃなくて、その幼虫に食べられて死ぬんです。尽くして死ぬタイプですね。
――じゃあ男にグイグイ向かって行ってとことん尽くすタイプですか?
篠原:はい。ヒモが好きなんですよ。
ヒモが好き!? 自堕落な生活を送っている筆者はそこに飛びついた。
――ヒモの中でこの男はひどかったという人はいましたか?
篠原:いつも無害なヒモばかりです。無害でめちゃくちゃ気の使えないヒモが多かったですね。唯一の労働がお皿を洗うとか……。1回連絡とれなくなってどうしたのかなあと思っていたら、ものすごくよく眠るヒモで、長く寝たと思ったのにちょっとしか寝ていないと思っていたら「25時間寝てた!」って言っていていつか死ぬんじゃないかと思いましたね。
――篠原さんが好きなタイプの人って虫に例えると何ですか?
篠原:カイコですね。カイコはすごく頼りなくて、人間が完全に家畜化した昆虫なので、一晩木に付けておくと、白いから鳥に食べられちゃうか足の力が弱くて下に落ちちゃうかしてしまう。1人では生きていけなくて、人間が桑の葉をあげないと死んじゃうんですよ。でも、白くてすごくスベスベしているのが魅力です。
▲世話をしないとすぐに死んでしまうカイコ
恋愛項目が36種類! 男女問わず虫嫌いでも楽しめる恋愛本!
虫と恋愛に関する強烈な話を聞いたところで、本の内容についても踏み込んでいこう。
――本では恋愛のパターンをどう分けていますか?
A.ものすごい悪人、少し困った虫や人、良い人、モテる人とモテない人、カップルの5章構成です。1章につき6~7本、合計36種類の虫を紹介しています。
――こだわった部分はどこですか?
A.ろくでもない人間とろくでもない昆虫がメインになるんですけど、人間にも昆虫にも愛を持って完全に悪人にしないようにして書いてます。虫の生態も36種類全て違うものを持ってきました。恋愛本でも、恋愛の項目が36種類になるものはないと思います。
――どんな人に読んでもらいたいと思っていますか?
A.感覚的に伝わりやすいのは同世代です。同世代でもくすぶった日の当たらないところを歩いてきた人に読んでほしいと思います(笑)。女性寄りって感じでもなくオスメス両方書いてあるので性別に関係なく読んでほしいです!
――虫が嫌いな人でも読めますか?
A.イラストを虫が嫌いな人でも読めるようなものにしていただき、解説の文章も露骨で気持ち悪い感じは抜きました。昆虫へ興味を持つ入口としてちょうどいいと思います。
▲ちなみに本の表紙がこちら。人のイラストはかわいらしく、虫のイラストは気持ち悪くない程度にリアルで書かれている。©文藝春秋
「恋する昆虫図鑑」は昨年度行われた第10回出版甲子園(出版甲子園についての記事はコチラから!)に応募された企画の1つ。決勝大会で編集者の目の前で企画のプレゼンをしてから1年程度で出版となった。最後に出版に対する想いを聞くことができた。
“絶対本にしたい企画があったら出しておいた方がいいと思います。本を出すってハードル高いことだ、ものすごく有名になってから出版社を訪問するしか方法がないと思っていました。でも実際には負担も小さかったです。やり遂げることは苦手ですが、そんな私でもできました!”
何事も挑戦が大事なようだ。
取材・文/甲斐田涼賀
篠原かをり
慶應義塾大学3年。幼いころから昆虫を愛し、クワガタからゴキブリまで様々な種類の虫を飼育。独学で昆虫の生態を学び、国際生物学オリンピックで優秀賞を3回獲得。クイズの女王としても知られ、「全国高等学校クイズ選手権」「クイズ30」などテレビ番組にも多数出演。
「恋する昆虫図鑑」は文藝春秋社のCREA WEBでも無料連載中! 詳しくはCREA WEBのホームページで!
篠原さんが昨年出場した出版甲子園実行委員会の決勝大会が11月22日に開催!詳しくは出版甲子園のホームページで!