ひとり出版社として「大人も読める絵本」を世に出す女性 その決意に迫る
現役大学4年生である筆者が就職活動をするなかで抱いた「はたらくってなんだろう?」という疑問。その答えに近づくためには、実際に社会ではたらいている方々に話を聞いてみるしかない!
こうして始まったインタビュー企画【はたらくってなんですか?】。
今回インタビューしているのは、1人で出版社「小さい書房」を経営している安永則子さん。大学卒業後テレビ局に17年勤務したのち、1人で出版社を立ち上げ、すでに3冊の書籍の出版に携った編集者だ。
テレビ局を退社し、ひとり出版社を始めるきっかけが「子供と晩ご飯を食べたいと思ったこと」と述べる安永さん。しかし、その決断に迷いはなかったのだろうか? インタビュー第2回では、その質問から聞いてみた。
≪安永則子さんインタビューシリーズ≫
・安永則子さんインタビュー①
・安永則子さんインタビュー③(11月10日公開)
■無責任には始められない。見通しと覚悟は半分ずつ。
Q.ひとり出版社をやろうと思ったとき、決断はすぐできましたか?
安永さん:
たまたま「ひとり出版社」に関する記事をネットで見つけました。そのとき、もうこれだ!と思ったんです。1人で出版社ができるというのが驚きで、かつ、時間の融通が利く「ひとり」こそが私の求めていたものだった。
でも無責任にはテレビ局も辞められないし、出版も始められない。実際にテレビ局を退職したのは1年後ですね。
ひとり出版社を始めるにあたり、「1人分の食い扶持は稼ぐ」という覚悟はしました。自分の食い扶持を稼ぐのは最低限の条件だと思うので、それをできるかどうか考えた。あとは「5年続けられなかったら考えよう」という区切りも付けた。5年で軌道に乗らなかったら、バイトするなり何なりで「続けていける策」を考えよう、と。覚悟半分、見通し半分でスタートした感じです。
Q.大きい会社ではたらくことと、ひとりではたらくことの違いは何ですか?
安永さん:
「大きい会社や組織の中ではたらく」という醍醐味はあると思うんですよ。大勢の中で仕事するからこそ、その中でお手本になる人を身近に見つけたり、物事を教えてくれる人がいたり、というのはあると思うんです。
私の場合は、20代から30代前半までは何の迷いもなく、はたらいていました。でも子供を産んでから、「子供と晩ご飯を食べたい」ということが重みを増してきたんです。聞きようによっては「なんだそれ」と思う人もいると思います(笑)
だけど、結局は人それぞれですよね。私も自分で驚いたのだけど「だったら、はたらき方を変えよう」となった。
Q.子供と一緒にご飯を食べたかった安永さんには、ひとりではたらける「小さい書房」が最適だったと……
安永さん:
1人で全部決められる。そういう自由度が私には魅力でした。あと、小さいからこその手ごたえというか、初めから終わりまで携われる充実感はあります。企画から編集、営業までしているから、ものすごい熱量は込めているんです。書店営業でも、書店員さんに制作の裏話をすぐ話せるし。
でも、1人だからこそ、できないこともある。意外と「ひとり出版社を始めたい!」と言ってくれる人がいるんですけど、「ひとり」だからこそ弱いところもありますよ、とお伝えしています(笑)
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■これまでに培った嗅覚で決断する
Q.困ったときに相談する相手は誰かいますか?
安永さん:
大きな会社だと相談する人が豊富にいるんです。法律に詳しい部署もあるし、仕事のやり方がわからなければ上司がいるし。
でもひとり出版社となると、そうはいきません。誰かに相談してギリギリまで悪あがきもしますが、最終的には「自分で判断して自分で責任を負う」、そんな決断や覚悟をすることが多いですね。
(自分で決断するとき)会社員時代の経験はものすごい活きてると思います。「こういうときは、こういうところに注意しなきゃいけない」というのかな。仕事を進める上で、嗅覚みたいなものは必要ですし、そういう感覚的なものは、社会人になってはたらいてきた中で失敗しながら学んできたように思います。大学卒業してすぐに1人で「小さい書房」を立ち上げられたかというと、私にはできなかったと思いますね。
取材・文/信太 秀斗
≪安永則子さんインタビューシリーズ≫
・安永則子さんインタビュー①
・安永則子さんインタビュー③(11月10日公開)