ネオン煌めく夜の街、小説で覗いてみませんか。
(Photo by Dick Thomas Johnson)
ネオン街にひしめく、ホストクラブやキャバレー、バー……。
「夜の世界」には、そこだけで通用するルールと、不思議な空気感があります。それを小説で表現するのは、漫画や映画とはちょっと違う難しさがあるのではないでしょうか。今回はそんな小説たちから、えぐみが少なく読みやすい3作品をご紹介します。
元ヤンホストに、突然息子が押しかけてきたら!?親子の絆に胸キュンです。
ワーキング・ホリデー(坂木司)(画像は楽天ブックスより)
ある日突然、元ヤンホスト・大和のもとを訪れた小5男子・進。進は自分が大和の息子だと言い…!?
「夜の世界」と銘打ちましたが、ホストクラブが出てくるのは最初の方だけです。なぜなら、大和は正義感の強さからホストを辞め、宅配便ドライバーに転身してしまうからです。
この小説は、突然現れた息子との交流を通して成長していく大和の姿とともに、宅配便ドライバーの生活を垣間見ることのできるお仕事小説でもあります。
「けなげ」な男の子にきゅんっ
小5にして主夫な進くんは、節約家で、家事も完璧。しかしある日、料理中にちょっとした火傷をした進に、大和は迷惑だからもう料理をするな、と言ってしまいます。次の日、火を使わない料理をお昼ご飯にと職場に届けに来た進に、大和が思ったことは、
『畜生、ゴマだれがきゅんきゅんするくらい甘酸っぱいぜ』。
読みながら要所要所でお父さん思いの進くんにきゅんきゅんさせられるのです。
“ホスト癖”がつい出てしまい、宅配便ドライバーなのに両手でペンを差し出したり、おっさん相手に手を包み込むようにおつりを渡したりしてしまうシーンも。くすっと笑えて、ちょっと切ない物語です。
ホストたちが事件を解決!? 波乱万丈な日常を目撃せよ。
インディゴの夜(加藤実秋)(画像はAmazonより)
こちらは、ホストクラブが舞台の連作ミステリー。
でも、普通のホストクラブではありません。女性オーナー・晶の「クラブみたいなハコで、DJやダンサーみたいな男の子が接客してくれるホストクラブがあればいいのに。」という思いつきからできたクラブ・インディゴには、個性豊かなホストたちがいるのです。
王道ホストは一人だけ
源氏名も、TKO、ジョン太、犬マンなど個性的な名前ばかり。クラブ・インディゴに王道ホストはほとんど存在しません。たとえばDJ本気(マジ)は、DJをやったこともないのにこの名前で、しかも金髪マッシュルームカットというヘアスタイル。マッシュヘアのホストってあまり想像できないですよね。
そんなカラフルで騒がしい彼らの中で、ザ・王道ホストの憂夜さんの王道っぷりが光ってくるという仕掛けです。
すぐに事件が発生するテンポの良さ
ある日、お客の女性が殺されたことから、晶とホストたちは事件の解決に奔走することになります。文庫版だと16ページ目で殺人事件が起きるところからして、テンポがよく、小気味よいですよね。彼らのコミュニケーション能力とフットワークの軽さで、事件を解決に導きます。探偵役のオーナー・晶さんは姉御肌の素敵な女性で、小説の良い意味での“軽さ”と相まって暗い事件でも爽やかな読後感です。夜の世界の闇を、クラブ・インディゴの面々が照らしてくれます。
少年と青年の狭間を漂うリョウの、ひと夏の物語。
娼年(石田衣良)(画像はAmazonより)
端的に言えば、「生々しいのに、掴みどころがなくてふわふわとした物語」です。
主人公のリョウは20歳の大学生。時々大学に行きながらバーテンダーをしていたところ、ある女性との出会いをきっかけに女性にからだを売るようになります。
いろいろな人を透徹とした眼差しで見つめながら描写したような表現は、間違いなく現実の世界を描写しているのに、どこか現実味がありません。
「生きづらい世の中だなぁ」なんて思ったときに、手に取ってみてほしい一冊です。
文庫版の解説者・姫野カオルコさんは、この本を「『娼年』はやさしいものがたりで、癒されるものがたり」と評しています。まさにその通りで、読んでみないとわからない、不思議で静かなパワーを持っているのです。
今回は、夜の世界が舞台の作品を3つ紹介しました。どの作品も、ノンアルのような気軽さで夜の世界観を味わえます。「まだ昼の世界しか知らない!」……そんなあなたにもおすすめです。
文/綾乃里綾里佳