早稲田の人気店「キッチンエルム」が閉店 名物店主が生み出す独特のメニューとは!?
「もう忙しくて休む暇もないよう」
店主は愚痴りながらも、客の注文に1つ1つ応えていく。独特のメニュー、愚痴をこぼすがおもしろい店主、店に掲げられている「掟」……!?
早稲田大学の近くにある「キッチンエルム」は、早稲田生から長年に渡って人気を博してきた。
そんな人気店が、本日(2016年2月20日)をもって閉店するという。普段から店に足を運んでいた筆者だったが、この噂を聞きつけ、あらためて訪ねてみた。
店に存在する謎の掟!?
店内に入り、カウンター席に座るとまず目に入るのがこの貼り紙。
・食べ終わった食器はカウンターの上に置く
・水はセルフサービス
・グループで来るならなるべく同じ注文で統一する
これが店の掟。食器と水は他の店でも求められることだが、注文の統一を求められるのはこの店特有の特徴だ。掟を破っても店から追い出されることはないが、店主の愚痴が増える。
また、最近ではこんな掟も登場した。
・注文は素早く的確に伝える
・入口の引き戸を閉めない
・忙しいときにオムライスを頼まない
引き戸については大体の人が守らずに、店主から指摘される。普通は閉めるものだと思うが、この店では引き戸がいつも少し開いた状態になっている。
1人の学生が引き戸を閉めようとすると、店主は「閉めなくていいよ。入って来られないから」と言う。引き戸を開ければ誰でも入って来られるとは思うが、店主としては客の入りやすさを重視しているのかもしれない。
この引き戸の掟を除くと、全ての掟が忙しさに直結している。掟を作るほどの忙しさにはどんな理由があるのだろうか。
店主1人で切り盛り! 愚痴にニヤける学生客
掟の理由は、カウンターにしばらく座っているとわかる。店主以外、従業員がいない。
店主はスパゲッティを炒めたかと思えばレジに移動して会計をし、レジにいるかと思えば厨房に戻って皿を洗う。店主は店内でせわしなく動く。
せわしなく動きながら、厨房の向かいにあるカウンター席の客に、忙しさに対する愚痴をこぼす。
「みんな注文違うじゃないかあ」
「この忙しいときに3人連続でオムライスを頼みやがって」
「大盛りばっか作ってるからさ、フライパンの柄が折れそうだよ」
しわがれた声でいつも何かしらの愚痴をこぼしているので、常連客はそれに反応しながらにやにやしている。
愚痴をこぼしたかと思えば、鼻歌を歌いだすときもある。エルムの話題になると、大体の早稲田生は店主が何を言っていたかで盛り上がる。
店内は決して広くない。カウンター席が埋まる昼休みの時間は、多くの客で店はぎゅうぎゅうになる。厨房も1人が動ける広さ。調理器具や材料が所狭しと並び、厨房からは年季が感じられる。
狭い店内では店主の話も近くで聞くことができる。店主との会話も店に来る楽しみの1つなのだ。
クリームソースのかかっていないカルボナーラ!? 人気の秘密は独特のメニュー!
学生街ということもあり、メニューはどれも安い。量も多く、追加で100円払えば2倍の量になる。メニューだけ見ているとただの洋食屋に思えるが、実際に出てくる料理は非常に独特だ。
筆者は人気メニューの「カルボナーラ」を注文した。早稲田生はこの料理を「カルボ」と略して呼んでいる。「カルボナーラ」と呼んでもいい気はするが、わざわざ略す理由はその料理の独特さにあった。
まず店主が取り出したのは、中華鍋。 ん?カルボナーラで中華鍋?中華鍋でバターを熱し、ベーコンやキャベツなどの具材を炒める。具材を炒めながら、謎の液体(油?)を流し込む。油を流し込んだ後に投入するのは、スパゲッティ。スパゲッティを中華鍋でよく炒めたら、皿に盛りつけ、粉チーズをかけて完成。
出来上がった料理がこちら。
作り方は焼きそばみたいだが、スパゲッティとバターで作っているので、洋風な味付けだ。ベーコンは炒めているので香ばしく、卵はいりたまごのようでおいしい。具材が粉チーズをかけたスパゲッティに良く合う。一般的な「カルボナーラ」とは全く違うが、とてもおいしいので人気が高い。筆者が行ったときには、18席あるうち、10人以上が「カルボ」を頼んでいた。
量も多く、平らげると満腹になる。この量で580円!お腹をすかせて行くと、とても満足できる。
食べ終わって店を出ようとすると、1人の客が「ごちそうさま」と言った後に「これからもお元気で!」と言った。しかし、店主はその言葉がよく聞き取れなかったようだ。「え?今何て言った?」突然言われた言葉に、店主は戸惑っていた。そんな様子を見た客たちは、クスクスと笑う。店内には和やかな空気が流れていた。
最終日、店主はどんな形で客に料理をふるまうのだろうか。おそらく、店主はいつもと変わらないだろう。いつも以上の忙しさに、いつもより多く愚痴をこぼすかもしれない。そんな最終日の様子に妄想を膨らませながら、腹が膨れた筆者は店を後にしたのだった。
文・写真/貝殻良太