落語=エンターテイメント!小説で知る落語の世界。
(Photo by tablexxnx)
春風亭昇々さんや三遊亭王楽さんといったイケメン落語家が話題になっており、今、落語が女性に大人気です。『昭和元禄落語心中』という漫画がアニメ化されたことで落語に興味を持ったという方も多いのではないでしょうか。
そんなあなたにおすすめしたいのが今回の3作品。漫画と同様、落語の魅力に触れられる見事なエンターテイメント作品なんですよ。
大倉崇裕『オチケン!』
(画像はAmazonより)
主人公は、越智健一。名前のせいで落研に強制入部!?
主人公・越智健一はひょんなことから廃部寸前の落語研究会に入部することになります。部員は先輩2人と越智のたった3人。周囲で起きる謎を、先輩のフォローを受けつつ越智が解決するという、落語×ミステリー小説です。
この作品の魅力は何と言っても、流れるように読めるのに、知らない間に落語の面白さに触れることができるところです。
落研での日常で起こる謎を解く中で、随所に落語がちりばめられているんです。例えば落語の前座話である「寿限無(じゅげむ)」ですが、「寿限無、寿限無、五劫のすり切れ・・・」という長い名前だということは知っていても、ストーリーの全貌は「何だったっけ?」という方も多いのではないでしょうか。筆者はそうでした。
この小説を読むと、ストーリーがわかります。そして、きっと落語を聞きたくなると思います。
佐藤多佳子『しゃべれどもしゃべれども』
(画像はAmazonより)
落語小説であり、青春小説であり、恋愛小説でもあるんです。
主人公・今昔亭三つ葉の職業は、落語家です。うだつの上がらない日々を送っていた三つ葉は、ひょんなことから「話すこと」に悩みを抱える素人4人の相手に落語教室を開くことになります。
登場人物たちは皆まっすぐで、けれど素直になれない不器用さを持っています。中でも主人公の三つ葉は、軽妙な語り口と一本気でお人好しな性格で、読者の心を鷲掴みにしてくれます。三つ葉に引っ張られながらぐいぐい読み進めていく中で、言葉の持つ力ってなんだろう、言葉の限界ってなんだろう、とどこか切ない思いが沸いてきます。
美人だけど不愛想な美女・十河と三つ葉との関係はとてもじれったいですが、その「じれじれ感」がこの小説の醍醐味かもしれません。悩み、時に立ち止まりながら進み続ける登場人物たちに勇気をもらえる物語です。
北村薫『空飛ぶ馬』
(画像はAmazonより)
日常系ミステリのパイオニア。やさしい物語です。
女子大生の「私」の日常に潜む謎を、落語家の円紫師匠がロジカルに解いていく「円紫さんと私」シリーズの第1作目です。こちらも落語×ミステリー小説で、5作の短編からなる連作短編集になっています。
文章全体がとても丁寧に綴られており、なめらかに進んでいく物語の中で、一話一話が温かく心に沁みます。円紫師匠の素敵な人柄もさることながら、女子大生の日常の描かれ方が面白いです。27年前に出版された本とは思えないほど、まさに「女子大生」なんです。
特に冒頭、大学に入ってしばらくすると一コマ目に間に合わなくなる、というエピソードには思わずうなずいてしまったり……。物語は、主人公がせっかく珍しく一コマ目に間に合ったのに休講だったことから動き出します。
落語は、落語家が声で、動きで、体全体で表現するもの。中でも重要なのはやはり落語家が巧みに使う「言葉」。落語を扱った物語の中では、言葉がとても大切に扱われていることを感じることができます。落語を聞いたことがある人もない人も楽しめる作品ばかりなので、ぜひご一読を。
文/綾乃里綾里佳