中村佑介の表紙デザインを紐解く(前編) 小説デザインのこだわり
※この記事は、Gaku-yomuの姉妹団体である「出版甲子園実行委員会」が発行した「第11回出版甲子園決勝大会特典冊子」の転載記事です。
『謎解きはディナーのあとで』『四畳半神話大系』、最近ではさだまさしのCDジャケットなど、本やCDのイラストを数多く手掛ける中村佑介さん。今回はその作品がどのようにして生み出されるのか、そのこだわりを取材しました。
小説の説明をあえて抑えるイラスト
――中村さんは今まで多くの本のカバーを手掛けられていらっしゃいます。CDジャケットと書籍では、表紙の描き方に違いはありますか?
CDと本では全然違いますね。音楽の場合、歌詞は単語の羅列であって文章にはなっていない散文詩が多いです。そういう抽象画のようなものを、具体的に縁取っていくような作業がCDジャケットです。
小説は逆に、物語の中で具体的な描写がなされています。それをどれだけ幅広いイメージで見せることができるか、まるですりガラス越しのように、抽象的にする作業なんです。
だから僕の描く表紙は、小説の内容の説明は半分で、「なんでこの本にこの絵なのか?」ということがあらすじを見ただけでは分からないようにしています。一見迷路のようにする。それで「なんだこの表紙は!?」と気にしてもらって、読まないと分からなさそうだからレジに持って行く。そういう行動をとってもらえるような表紙を心がけています。
本を読み終わった後に「あっ! だからこれが描かれていたんだ!」と気がついてもらえる、読み手におもしろいと思ってもらえる表紙を目指しています。
▲小説『四畳半神話大系』のイラスト(画像はアニメ公式サイトのスクリーンショットです)
バリエーションを増やす難しさ
――本の場合は中身を読んでからより一層楽しめるイラストなのですね。中村さんは単行本のほかにも『きらら』という文芸雑誌の表紙も手掛けられていらっしゃいました(2009年10月号~2015年5月号)が、単行本と雑誌の表紙といった場合も、デザインを考える際に違いはありますか?
単行本と雑誌の2つはCDで例えるとシングルとアルバムの差と近いです。雑誌『きらら』の場合、たくさんの小説が連載されており、全て1枚の絵に詰め込む訳にはいかないので、基本的には「読書」という大きなテーマを描いていました。
それにプラスして版元である「小学館」のイメージ、読者層もあります。そこに季節感を盛り込み、毎月新鮮に見えるバリエーションを心掛けていました。
▲雑誌『きらら』の表紙イラストがまとまった、単行本『きららちゃん』の表紙。このイラストは『きらら』2014年7月号にも使われた。(画像はAmazonより)
――雑誌の表紙を考えるのは難しいですか?
難しいです。何が難しいかというと、続けることですよ。単行本と雑誌なら雑誌の方が1年なら12倍、2年なら24倍難しいです。例えば季節感を出し、12カ月で一周した時、もう同じモチーフは使えません。去年クリスマスの絵を描いたら、今年は描けない。僕みたいに季節縛りで描いていると、自分の首を絞めることになりますね(笑)
単行本でいうと、森見さんの本も3冊目なんですが、今までのイメージも求められるし、新しいものも求められる。もちろん中身は違う物語だし……。雑誌も小説も、1冊目は簡単ですが、続けることが難しいですね。消費者は同じものでは飽きるし、変わったら嫌がるものですから。
▲『新釈 走れメロス 他四篇』の表紙。森見登美彦さんの表紙を手がけるのは3度目となる。
制作依頼にどう応えるか?
――自分で一から手がけるオリジナル作品とは違い、他の方の作品の表紙を手掛けることの難しさはありますか?
いいえ、それはありません。僕の場合、頭の中に設計図を持って指示をする人と、実際に手を動かし絵を描く人の2人がいて、それぞれ役割分担をしているんです。建築現場の建築家と作業員のような感じ。建築家が「こういう図面で家を建てて欲しいんだけど」と提案をしてきて、作業員が「それならこうしましょう」と、それを紙の上でやっているんですね。
本の表紙を描く時は、その監督が、小説の作者という実際に住む人から「どんな家にしましょうか?」と話を聞く感じ。なので僕は、絵を描くときに作者の方をすごく調べるんですよ。その人がどういうタイプの人間か分からないと、小説も「どうしてこういう書き方・ラストになっているのか」が把握できない。そういう部分を共有するために、一見、作品とは関係のない作者の趣味や好みだって調査する。だから基本的な作業は、オリジナル作品も仕事も同じ工程を歩みます。
▲中村さんが手掛けたイラストの線画
――そんな時、その頭の中の指示を聞いて「もっとこんな絵にしたいなぁ……」と考えることはないのですか?
本当にないですねぇ……。絵を描いている自分が偉い、頭が良いとは思っていないので、その時の感覚とか好みで動いちゃうと、つまらないものができるんじゃないかと思っています。イラストレーターは商品の売上を伸ばすことが使命なので、指示する側に任せています。絵を描くことは僕にとって仕事なので、僕自身の好みはあんまり重要じゃないんです。
ぼんやりしたイメージでは絶対に表紙を描かない!
――表紙にモチーフを配置する上でのこだわりはありますか?
小説の表紙では、ストーリーの中に登場するものをそのまま描いています。ぼんやりしたイメージのままは絶対に描かないということを心がけていて、できるだけ調べて、具体的に書くようにしています。普通のイラストレーターの方なら省略してしまうようなところも正確に、細かく。
例えば森見登美彦さんの表紙では、お寺や電車の形ですね。『夜は短し歩けよ乙女』表紙の電車は創作ですが、もし小説の中でどんな車両か具体的に書かれているんだったら、鉄道ファンの人が見てもどこも間違っていないような電車の絵を描くんです。『新釈 走れメロス 他四篇』表紙の女の子が持っている万年筆にしても、ペンの蓋はキャップが閉まるような太さ、長さに描いています。
表紙は、文字だけの世界である小説を読むための手助けとしての機能も担うからです。
▲自身が手がけた『新釈 走れメロス 他四篇』の表紙写真を指差す中村さん。
後編は5月14日配信予定。お楽しみに!
文/M.HOSODA
写真/大山慧士郎
お知らせ
中村佑介さんによる、初のイラストハウツー本が大好評発売中!
中村さんのラフ画も紹介されている、ボリュームたっぷりの内容となっています。
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関連イベント
Gaku-yomuの姉妹団体である出版甲子園実行委員会が、東大五月祭で中村佑介さんをお招きしたトークショーを開催!大好評につき予約席は満席になりましたが、当日席もございます。先着順のため、当日はお早目に会場へどうぞ。
【開催概要】
日時:2016年5月14日(土)9:30~
場所:東京大学本郷キャンパス 安田講堂エリア 法文1号館(東)法21
入場料:無料!
詳しくは出版甲子園実行委員会のホームページへ。