中村佑介の表紙デザインを紐解く(後編) 書籍イラストのこれから
※この記事は、Gaku-yomuの姉妹団体である「出版甲子園実行委員会」が発行した「第11回出版甲子園決勝大会特典冊子」の転載記事です。
今回インタビューしたのは、数多くの小説で表紙イラストを担当されている中村佑介さん。イラストのこだわりを聞いた前編に続き、インタビューの後編は出版不況と言われる中でのイラストや書籍の展望を取材しました。
パンツが出てくる表紙!?
――ご自身でお気に入りの表紙や、気に入っているポイントはありますか?
最近のお気に入りの表紙は、『新釈 走れメロス 他四篇』です。フルチンだし。パンツ描いてるし。KADOKAWAという大手出版社から販売する本の絵で、パンツを履いていない人物を描けたのが結構意義があるというか(笑)
それに、この表紙の女の子は首に縄が巻きついたり、二の腕の部分の締め付けのある描写など、肉感的な表現は、意外と「やっちゃダメ」とクライアントに止められる場合もあるんです。
でもやった方が絶対森見さんの世界観は表現できると思った。そんな風にたくさんの挑戦が詰まっているので、これは「いい絵が描けたな」と思います。好きですね。
(画像はAmazonより)
自分の絵の好きなところは、絵柄というより、よく働いていると納得できるところだと思います。例えば表紙の仕事をするとき、あらかじめ原稿料は決まっています。絵というものはすごく感覚に頼っている部分が大きいので、一本だけ線を引いても、緻密な絵を描いても貰える金額は同じです。
僕の絵の場合、「この絵で〇〇円もらいました」と言ったとして、「そりゃそうだよな。時間かかってそうだもんな」と納得してもらえるような仕事量が見えるところが好きですね。
本はまだまだネットには負けない!
――これから挑戦してみたいと思う本の表紙はありますか。
小説の仕事ももちろんですが、エッセイやノンフィクションなどいろいろなものに挑戦してみたいですね。
近年、出版業界は売上が落ちたと言われてますけど、ネット以後でこれだけ売上をキープしているメディアってないと思うんですよ。テレビや新聞、CDの売上なんかはたぶん十分の一以下に落ちているんじゃないかと思います。ただ、書籍は実はそんなには落ちてない。
もちろん少子化の影響で、購買層自体が少なくなっているというのはありますが、僕たちはたぶん読む事より先に、”本”という物自体が好きだから、これからも本は売れ続けると思います。そして僕もいろいろなジャンルの表紙を書いてみたいです。
▲『中村佑介 2016カレンダー』 中村さんの手がける書籍の種類は非常に幅広い。
――ネットが出てきたあとも、本というジャンルはまだまだ売れる余地があると。
ぜんぜん負けない。現時点では負ける要素の方が少ないと僕は感じます。例えば、まだ画面上では、本と同じ情報量は表示できません。あと電気を使わないといけない。本は充電しなくても、昼だったらずっと読んでいられる。そんな電池いらずで、ぱっと開けるエンタテインメントって、現代ではもう他にあまり類を見ません。手触りとか紙の匂いとかそういう情緒的なことじゃなくて、そんな風に単純に本は「モノ」として圧倒的に便利なんです。
だからもっともっと売れるものを出したいですね。言い訳のできない世界だと思います。ミュージシャンは「やっぱりCD売れない時代だもんね」って言えますけど、本出してる人は言えませんよ。売れてるもん。
▲2011年に180万部超を売り上げた『謎解きはディナーのあとで』の表紙も中村さんが担当(画像はAmazonより)
一方で、電子書籍についてもけっこう可能性を感じていて、電子書籍ならではの面白い本がそろそろ出てきてもいいんじゃないかと思っています。例えば画集だったら動き出したり、ぬりえになっていて画面を押したら色が出てきたり。今って文章をズームできる機能くらいですが、例えば料理の雑誌だったら紙媒体で写真だった部分が、電子版ではジュージューと音がなって動く映像になっていても良い。
同じ表現だと、今の時代なら本物の本に負けちゃうと思うので、もっと「ならでは」の表現がたくさん見たいですね。
――今の時代は出版不況や「ネットには負ける」と言われていますが、足踏みせずに攻めていくことが必要だということでしょうか。
もちろん。出版社の方を見ていると、常に新しい企画を探している。だから本を出したいと本気で思っている人は、企画書をきちんとまとめてアポを取って、出版社に売り込んでもいいのかも。賞を取らなくても本になることはたくさんありますからね。むしろそちらの方が多い。今までにないジャンルで企画を立ててめちゃめちゃヒットするっていうのは、出版の世界ではまだまだあることなんです。
もっとたくさん面白い本が生まれて欲しいし、僕も面白い本の表紙を描きたいです。
文/M.HOSODA
写真/大山慧士郎
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