スラム取材の元祖! 『海外ブラックロード』を読む
スラムや危険な街の取材に注目が集まっている。スラム取材が収録されたTBS「クレイジージャーニー」のDVD第2弾は、オリコンの週間DVDランキングで総合1位を獲得するほどの人気ぶりだ。
(photo by khym54)
そんなスラム取材の元祖とも言えるのが、旅行作家の嵐よういち氏の書いた「海外ブラックロード スラム街潜入編」 アジアやアフリカのスラムに潜入し、余すところなく現状を伝えている。
「貧困」「不衛生」「危険」……そんな言葉がスラムからイメージされがちだが、嵐氏の著書はその一辺倒なイメージとは異なる側面をユニークな文体で見せてくれる。
(画像はAmazonより)
危険な街での臨場感あふれる取材!
(photo by Nao Iizuka)
嵐氏が「危険な街」として取り上げるのは、ケニアの首都ナイロビ。ナイロビは昼間でも強盗に遭う危険がある。
本ではナイロビの中でも最も危険なダウンタウンに潜入し、街の雰囲気を紹介している。本で登場する写真の中には、ガラの悪い男がカメラを指差す一触即発の状況が収められている。
また、アフリカでは黒人による日本人・中国人差別など意外な実態が発覚。「黒人は差別されている」と思われがちだが、イメージとはかけ離れた実態が紹介される。
(photo by khym54)
ナイロビのスラムはキベラスラムと言う。東アフリカで最大のスラムとも言われるスラムは100万人の住民がいると言われている。写真に映っているのは4分の1にも満たない。
スラムの中にはなぜか小川が流れ、道はぐちゃぐちゃ。
キベラスラムの取材では、スラムの恐るべき広大さや住民の生活の実態が判明する。食事もとれない貧しい暮らしの人ばかりかと思えば、冷蔵庫やテレビが完備された室内で快適に暮らす住民もいるのだ。
個性あふれる登場人物の数々!
嵐氏と一緒に取材をするのは「オガミノ君」という青年。虚弱体質で痩せ型にもかかわらず、嵐氏の危険な取材に同行する。この「オガミノ君」のキャラクターがおもしろい。パスポートをズボンに入れたままシャワーを浴びてしまったり、アフリカでぼったくりに悩まされたり、堂々としている嵐氏とは対照的に臆病であったりと何かとトラブルが起きる。
(photo by khym54)※写真はキベラスラムで撮影されたものですが、登場人物とは関係ありません。
また、途中でスラムを案内してくれるボディーガードや案内人も個性的だ。キベラスラムの取材で同行したボディーガードは「女とデートする前のようなおしゃれな格好」をして案内。ぼったくりやゲイなども登場し、取材を一筋縄では行かなくさせる。
観光客も迷い込む!? スラムは意外にも日常の近くにある!
▲バンコク市内の繁華街(筆者撮影)
遠い存在に思われるスラムも、タイの首都バンコクでは観光スポットのすぐ近くにある。バンコクは近年急速な発展を遂げ、街中には真新しいショッピングモールやデパートが立ち並ぶ。
しかし、にぎわう商店街を外れると突然バラック小屋が現れる。バンコクのスラムは、鉄道駅の近くや川沿いに突然現れることが多いようだ。
▲川沿いのスラム街(筆者撮影)
嵐氏は、バンコクのスラムを次のように紹介している。
ファランポーンのスラムは、以前、列車内から見たときよりも小さく感じた。スラム内はまるで下町のような雰囲気であった。
※ファランポーン・・・バンコクのターミナル駅で、タイ中の列車がここに集まる。
▲タイの列車から撮影したスラム(筆者撮影)
確かに筆者がタイで鉄道に乗っていると、バラック小屋だらけの車窓を目にすることもあった。
嵐氏は、スラムが決して遠いものではないと伝えている。本で紹介されるスラムは、どれも駅から近いところにある。
スラム街は観光客とは遠い存在だと思われがちだが、海外では日常の一部と化しているのだ。
近年人気を博すスラム取材。イメージとは異なる現実に目を通してみてはいかがだろうか。
文/貝殻良太