毎日60本以上!?ドイツの演劇事情
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ドイツと聞くとビールやクラシック音楽を想像するかもしれません。あまりイメージがないかもしれませんが実はドイツでは演劇も盛んです。
去年のシーズンの間に記録されているだけでもドイツ国内で23359回の演劇が上演されました(Theaterstatistik 2014/2015より)。単純計算すると1週間で420回、平日含めて1日に60回以上もの上演が行われていることになります。
これは公立などの主要な劇場での公演だけの数字なので、小劇場を含めるともっと膨大です。同じシーズンのオペラ5918回、コンサート3400回に比べると演劇の上演がいかに多いかがわかると思います。
ここでは筆者が観てきた、ドイツ演劇の魅力をざっくりと紹介していきます。
bei Nutzung verweisen Sie bitte auf: © Thilo Beu(ボンの公立劇場より)
さっそくですが、この写真はなんの作品の舞台だと思いますか?
なんとこれはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の舞台なんです。これはドイツ西部の都市ボンの劇場の演目です。
ドイツの演劇シーンでは、写真のようにシンプルでメカニックな舞台を多く見かけます。ドイツ演劇では、物語を追って感動することよりも、現代社会の問題(難民問題、暴力、セックスなど)がシニカルに示されることが多いです。商業的なエンターテインメントとはその目的が異なります。
それでは、ドイツ演劇の魅力を紹介しながらゆっくりと紐解いていきましょう。
魅力その1.劇場=劇団!
ドイツには各町にだいたい公立劇場が1つ、大都市には複数あり、それぞれの劇場で毎月新しい作品が制作されています。公立劇場とは市や州からの助成を得て運営されていて、俳優や演出家を雇っている劇場のことです。
日本では劇団が劇場を借りて上演するプロデュース公演が多いのに対し、ドイツの公立劇場では劇場と劇団の区分がありません。
ボン劇場の俳優は、どこそこの劇団の俳優ではなく、ボン劇場専有の俳優となります。日本で専用劇場を持つ劇団は静岡のSPAC(Shizuoka Performing Arts Center)などがありますが、ドイツでは主流のスタイルです。
建物(ハード)と人材(ソフト)が一緒になっているのがドイツの公立劇場なのです。
(写真は舞台裏を見学したときに撮影したもの)
劇場の中には様々な工房があり、舞台装置や小道具、衣装など専任のスタッフによって作られています。
過去の作品で使われた道具などは劇場内にある程度保存されており、作品によっては再利用されます。工房には作りかけの装置や衣装が置いてあります。
魅力その2.毎日フル稼働!
ドイツの劇場は常に複数の作品を上演できるよう、準備が常に整えられていて、日々異なる作品が上演されます。例えば、今日はゲーテの「ファウスト」、明日はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」といったように。
このような運営方針を「レパートリーシステム」といい、1度上演された作品は、日本のように短期間に集中して上演するのではなく、日程をあけてぽつぽつと数か月に渡って上演されます。
(写真はボン、ケルン、デュッセルドルフの上演パンフレット)
レパートリーシステムのもとでは劇場は常にフル稼働です。
昼間には次作の稽古を行い、そのあと夕方の上演用に舞台を作り直します。上演が終わると次の日の稽古のためにまた解体されます。1日に2回も舞台が作り直されます。
これは公立劇場の巨大な運営体がなければ不可能です。演出家や俳優などのアーティストから運営を管理する事務スタッフ含めて300人以上が1つの劇場で働いています。
給与、設備、製作費等々、数十億円にのぼる莫大な税金が公立劇場に使われています。
魅力その3. たくましき劇場文化!
これだけの巨大な運営はとうていチケット代だけで賄えるものではありません。そのほとんどは税金に依るものです。
ではなぜ、ドイツでは大量の税金を投入してまで巨大な舞台芸術興行を支えているのでしょう?
かつてドイツは小国の集まりであり、各国の諸侯たちは競い合うように劇場をつくり芸術家を雇って発展させました。国に優れた文化があるというのは国の威厳を示すためにとても重要なことでした。
(写真はデュッセルドルフ劇場のロビー)
現代では社会に対して批判的な役割を担っているという理由から国が援助をしています。
批判的であるが故に、刺激的な作品がドイツにはゴロゴロしているのです。ときには保守派の人から叩かれるときがあります。しかし、まさにそのときこそ公立劇場は議論の場をつくりだすという重要な役割を担っています。
国がお金を援助することでチケット代を安く提供し、多くの人が演劇に触れられるようになります。チケット代は劇場にも席にもよりますが、だいだい10ユーロ(約1200円)くらいです。助成がなければ公立劇場のクオリティの作品は10倍以上のお金を払わなければみられないでしょう。
(写真はベルリンの民衆劇場、フォルクスビューネ)
もしドイツに旅行する機会がありましたら、ぜひドイツの劇場に足を運びいれてみてください。きっとそこでは想像をこえる体験ができるはずです。
さあ、いざドイツの劇場へ!
文・写真/もやし
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