短いなかに独特の世界観を閉じ込めた、何度でも楽しめるショートショート集「インスタント・ジャーニー」
面白い本が読みたい!忙しいなかでも気軽に読める本が欲しい!
そんな声に応える本、見つけました。
その名も「インスタント・ジャーニー」。
いったいどのような本なのでしょうか?
「インスタント・ジャーニー」とは?
(Amazonより)
11編目「虚無缶」
ある古い工場に不思議な体験をしたことのある男がいるときいて、私は彼にインタビューをしに行った。もはや鉄骨のみが残っているばかりの廃墟のなかで、男が語るその体験とは。
13編目「花屋敷」
あらゆる季節の花が咲き乱れる山。その山を花の根をたぐりながら歩く男がいた。長い根の先にある小屋で、男が知った秘密と男が下した決断とは。
ひとつの話が10ページに満たないという短さなのにもかかわらず、つい何度も読み返してしまうという魅力を持った、ある意味奇妙な本。それがこの「インスタント・ジャーニー」です。18編のショートショートは私たちを不思議な世界に連れていってくれます。
(公式HP「海のかけら」より)
作者は若手ショートショート作家、田丸雅智さん。1987年に愛媛県に生まれ、2011年に作家デビュー。2015年よりショートショート大賞の立ち上げに尽力し、審査員長を務めてもいます。
なかなか手に取ることの少ないショートショート集。特に、普段は長編小説をよく読むという人の中には「ショートショート集なんて読んだ気がしなくてつまらない」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。
しかし、つまらないなんてことはまったくありません。むしろ、短いストーリーの中に、たくさんの魅力がつまっているのです。
読者の心を惹きつけるこの本の魅力とは?
(Photo by Lorenzo Scheda)
この本が不思議な引力をもって、読者の心を惹きつける理由は、その「モヤモヤ感」と「短さ」です。
ひとつの話はたった数ページですが、筆者の紡ぐ言葉によってはっきりと示されてはいない、また別の意味を想像してしまいます。
特にこむずかしいことが書いてあるわけではありません。むしろ易しい言葉で書かれていて、きちんとオチまでついている。それなのにまだ、もう少し何かがあるのではないか。もっと見つけられるものがあるのではないか。そう読み手に感じさせるのです。
(Photo by ThomasLife)
しかし、もし、その作品が長編であったとしたら、「暇がない」「疲れる」といった理由で読みなおしができず、「モヤモヤ感」がそのまま残ってしまうことが多いのではないでしょうか。それではあまりに残念です。せっかく楽しく本を読んだのなら、「モヤモヤ感」を解決して、スッキリしたいでしょう。
そこでこの作品の「短さ」が魅力になるのです。長編を読み慣れている人にとって「短さ」はストーリーの薄さやあっけなさを思いださせる『つまらないもの』の代名詞でもあります。
しかし、このような「モヤモヤ感」を感じさせることのできる本であれば、その「短さ」はむしろ、何度でも読み返すことができる『手軽さ』という魅力になり、その本は開くたびに別の顔を見せ私たちを想像の世界へと誘う、生涯で指折りのお気に入りになることでしょう。
本が苦手な人でも気軽に楽しめる、短くてステキなこの本。ぜひ、一度手にとってみてください。私の大好きな本がみなさんの好きなもののひとつになりますように。
文/sayo