深夜に読みたい!陰鬱な心に寄り添ってくれる、暗いけれど優しい小説3選
(photo by OnceOverLightly)
すっかり夜が長くなり、温かいものが手放せなくなる季節になりました。
そんな肌寒い夜中、ふと眠れないほど気分が落ち込むときってありませんか?
「明日はまだ平日、早く寝なきゃ…」と無理に眠りに入ろうとしても、なかなか難しいですよね。
(photo by André Moraes )
そんなとき、焦りは禁物。じっと横になって睡魔が訪れるのを待つのもいいですが、ここは現実から逃避して、思い切って夜更かししてみませんか?
今回はそんな陰鬱な夜のお供にぴったり、「同調効果のある小説」を三冊紹介します!
(同調効果とは…相手と自分に共通性があることに安心感や親近感を覚えること。)
切ない展開に胸が締め付けられる一冊─『何もかも憂鬱な夜に』
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まず一冊はこれ。『教団X』などで有名な芥川賞作家の中村文則によって2009年に書かれた、「死刑制度と向き合う」中編小説です。
主人公は若い刑務官の「僕」。18歳の時起こした殺人で死刑判決となった青年、山井の監視を担当しながら、日本の社会のあり方や自らの生き方と葛藤し続ける物語になっています。
この山井というキャラクターは発言や行動に問題の多い非人道的な一面も見せますが、時折「僕」や他の刑務官の負の感情の核心を突く言葉が飛び出したりといった洞察力に富んだ一面も見せます。
彼を台風の目としながら、翻弄されるキャラクターたち。「自分たち刑務官とは一体何なのか、社会とは何なのか」を考えせられます。
これを読み続けていけば、答えのない問題に直面しなければならない彼らの姿に無意識に感情移入をしていることでしょう。溢れ出す人生のやるせなさに、気づけば読んでいる貴方も涙を流しているかもしれません。
また登場人物の心理を深く、そして繊細に描写したリアリティのある表現に心をやられます。
重々しいテーマを前面に押し出した小説ですが、気分が沈んでいる時に読めば深い同調効果が得られることは間違いないでしょう。
定番中の定番、でも意外と読んだことはない?孤独に苦しめられた文豪が遺した自伝小説──『人間失格』
(画像はamazonより)
おそらく知らない人は居ないでしょう。言わずと知れた日本を代表する文豪、太宰治による自伝とも言われる小説です。
プロローグのあと、『恥の多い生涯を送って来ました』という印象的なフレーズから始まる主人公の独白。自分の生き方とアイデンティティーに苦しむ一人の青年の視点で物語が進んでいきます。
「人間というものが分からない」という大きな不安を抱えながら生きる彼の姿は読者の心を打ち、また共感を誘います。
周りの子供達とは違う考え方を持ち、大人に迎合するために神経をすり減らしていた幼少時代。
人生における漠然とした絶望の塊は主人公の心を徐々に蝕みます。
人間を見る観察眼が人一倍優れていた彼は、他人の見えなくていい心の深部までも覗き込めてしまう。
そこで彼が出した結論とは──?
続きは本の中で。「こういう人間も居るんだ。なんだ、じゃあ自分だって生きてていいじゃないか」と前向きに思うことのできる小説です。
妻の悲痛が、片腕という感覚器官から全て伝わってくる。号泣したいときに読みたい、ある元音楽家の悲劇──『失はれる物語』
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最後はこちら。弱冠17歳で熱烈デビューを果たした作家、乙一による短編小説。
今まで紹介してきたものは現実感の強い物語ですが、『失はれる物語』は現実をベースにしながらも、少量のファンタジー性を加えたものになっています。
元ピアニストの男はある日全身の機能が麻痺するという病気にかかり、さらに右腕の皮膚感覚を残して他の全ての感覚を失ってしまいます。
妻は病院にやってきて懸命に看病をし、男の右腕を「ピアノの鍵盤」に見立てて演奏をして彼の心を慰めようとします。
しかし男はそんな妻の姿を見ることも叶わず、言葉を伝えることもできず、さらにその声を聞くこともできないという痛々しい現実。
無情にも意識だけははっきりしているだけに、その悲しみは読者からは計り知れません。
まるで生きた人形のような生活を続ける男が物語の最後に思うこととは一体何なのでしょうか。
これは乙一の紡ぐ物語のほとんどに対して言えることなのですが、とにかく世界観が独創的で、味わい深い非日常を堪能できます。
もちろん他にもたくさん魅力的な点はありますが、最初に読者の印象に残るのは世界観、と言っても過言ではないかもしれません。
まとめ
(photo by Mattia Merlo)
鬱々しい気持ちになるときは、誰にだって少なからずありますよね。そういう時こそ一旦現実から離れてフィクションの世界に浸ってみると、次の日新鮮な気持ちで朝を迎えられるかもしれません。
もうすぐ平成も終わり。そんな一つの節目に、ぜひ一度お気に入りの本を探す旅に出てみてはいかがでしょうか。
(文/一年明日)