【それでも、夢に火を灯せ】宇宙に挑むEarth Light Projectを創る、学生たちの”キセキ”。
コロナ禍や様々な国際問題で分断される世界の中、それでも「世界が繋がり続ける」ことを諦めず、日々奮闘する若者たちの姿がそこにあった。
「『何かやりたいことはあるけど、できない』みたいな学生って、今すごく多いと思うんですよ。”夢不足”っていうか。だからこそ、今このプロジェクトに多くの学生が集まっているんだと思います」
「宇宙へ炎を掲げる」という人類初の試みに学生主体で挑戦するプロジェクト、「Earth Light Project」実行委員会代表・都築則彦さんは、今現在様々な障壁に苦悩する大学生の現状をそう語った。
宇宙。それは、誰もが一度は訪れることを願う夢。
炎。それは、人類史で時に「共生の証」、時に「武器」として扱われてきた諸刃の剣。
いま、なぜ「炎で宇宙を目指す」のか。なぜ「若者の力で」なのか。Gaku-yomu編集部は今回、Earth Light Projectを実現させるため挑戦を続けている3名の学生たちに詳しくインタビューを行った。
Earth Light Project(ELP)とは?
(画像は公式サイトより。2020年8月29日時点のもの)
Earth Light Project(アースライトプロジェクト。以下、ELP)とは、「人類史上初、宇宙に向けて炎を打ち上げ、炎越しの地球を撮影する」ことを目的とした学生主体のプロジェクトだ。
パンデミックの影響で世界中での「分断」が進む中、この壮大な挑戦を日本中の若者が協力することで達成し、「共生」への願いを紡ごう、というメッセージが込められている。
(画像はクラウドファンディングページより)
宇宙に放とうとしているのは、この「スペースバルーン」と呼ばれる機体だ。これを成層圏まで飛ばし、炎越しの宇宙を撮影するという。開発や技術面も様々な企業や研究機関の力を借りつつ、ELPの理念に共感して集結した日本中の学生たちが主導となって取り組んでいる。
宇宙飛行士の山崎直子さんをはじめとした多くの著名なサポーターを抱え、また2020年9月9日現在、クラウドファンディングで資金調達に邁進している。
期間は「9月16日」までの残り1週間。ここからが正念場だ。
▶︎クラウドファンディングページはこちら。
ELPには学年や性別、都道府県を問わず様々な学生が集まっているが、主催するのは「学生団体おりがみ」という学生団体である。
学生団体おりがみとは?
(画像は公式サイトより)
学生団体おりがみは、「学生が軸となり、ひとりでも多くの人が関われるオリンピック・パラリンピックをつくる」ことを目指す学生団体である。
現代表であり設立者の都築さんによると、名前の由来は「『オリ』ンピックとパラリンピックを『が』くせい『み』んなで盛り上げよう」という意図で、かなりシンプルに名付けたという。
2014年設立以降、40大学210名もの学生が集結。東京2020大会に向けた日本最大規模の学生団体であり、日本のボランティアを今後さらに活発にしていくためにクリエイティブな企画を行い、日々活動している。
▶公式サイトはこちらから。
都築則彦さんプロフィール
都築則彦
千葉県出身。Earth Light Project実行委員会代表にして学生団体おりがみ設立者・代表(東京2020大会に向けた日本最大規模の学生団体。また、宇宙と食の若手研究会代表、全国ボランティア活性化プロジェクト実行委員会代表など、様々な団体で功績を残す。
現在、千葉大学大学院博士課程でオリンピックボランティアを研究中。2019年度千葉大学学長賞受賞、日本財団学生ボランティアセンター中長期計画策定委員会委員、東京2020オリンピック聖火ランナー ほか。
今回は都築さんをメインに、他2名の学生メンバーにもお話を伺った(詳しくは記事の後半にて!)。
『元々は、オリンピックに合わせて炎を打ち上げる予定でした。でも、コロナで全部白紙に戻って……』──プロジェクト立ち上げのきっかけと、最初の苦難
──色々なメディアでELPを立ち上げたきっかけって話されていると思うんですけど、もう一度都築さんの言葉でお聞きしてよろしいですか?
都築さん(以下、都築):一番最初のきっかけは「聖火リレー」ですね。僕はもともとオリンピック・パラリンピックに向けて色んな活動をしてきていて、実践面・研究面から取り組んでたんですけど、その中で、「聖火リレーはもともと(国内だけじゃなく)世界を回っていた」ということを知ったんですね。
世界中を走りながら「オリンピックやるよー!」と言って回ることが聖火リレーだったと。
ただ、それが2008年の北京オリンピックのときのチベット民族の暴動の問題に巻き込まれて、「危ないから世界を回るのはやめよう」ということになって、「世界の聖火」は失われてしまったんです。
それを学生の手で取り戻す、もっと言えば国境線の無い宇宙に炎を飛ばせば世界の聖火リレーを取り戻せるじゃん、ということにすごいワクワクしたんですね。そのストーリー性に。本物の聖火ではなかったとしても、聖火と同じ時期に炎を宇宙に連れていくことができれば、そのストーリーを演出できると思いついちゃったんです。
だから、本物のオリンピック聖火を上げる訳ではないけど、それを「思いついちゃったからにはやろう!」と考え、2018年からずっと取り組み続けています。
──ちなみにお話を聞いていて思ったのですが、何で「学生が主体」なのかな、という点が気になったんですけど……。
都築:あ、確かにそれは他のメディアでは答えてないかもしれません(笑)。えっと、学生が主体である理由っていくつかあったんですけど、元々おりがみが学生に注目していた前提の理由として、「学生がオリンピックに関わるのは難しい」ことがあります。
「オリンピック教育」というのがあるんですけど、それって小学校、中学校、高校が対象なので、大学は対象外なんですよ。一方で、スポンサー企業に転職します、っていう方向とか、組織委員会に入りますっていう方向でオリンピックに関わってる社会人は結構いっぱいいるんですよ。でも、学生ってちょうどその中間にいて。オリンピックに関わりたくても関われない、ど真ん中にいるんですよね。
しかも、オリンピックのボランティアの募集って、オリンピックの開催の2年前にされるので、その時の大学3,4年生はもう就職しちゃうじゃないですか。つまり、就職できるかも分からないから、ボランティアに申し込めない。じゃあその時の1,2年生はどうかっていうと、2年生は就活と被っちゃうかもしれないですよね。だから、怖くて申し込めないんですよ。そうすると申し込めるのは、1年生だけなんです。
一方で高校生は、大学受験に受かるかどうかもわからないじゃないですか。浪人中にオリンピックボランティアやります、なんて言えないですし……ということで、申し込める人って本当に少ないんですね。だから申し込む人たちってけっこう勇者だと思います。
──確かに。そうするとほとんどの大学生が関われないですね。かなり残念というか、もったいないというか。
都築: 要するに、学生がオリンピックに関わっていくってすごく構造的に難しい、まずそれが前提としてあるんですよね。
で、大学の授業を通すなどして、仮にオリンピックボランティアになれたとしても、振り当てられた業務を担う感じのもので、それってクリエイティブな感じがしないっていうか。
──確かに、授業のボランティアっていうと単位目的なイメージがあります。
都築:みんなが初めてやるオリンピックだからこそ、何でもできるかもしれないのに、その可能性がすごく小さい。それをどうにかして広げていこう、というのがおりがみの思想・理念なんですよね。
ここまではロマンベースなんですよ。ただ、ロマンだけじゃ上手くいかなくなる時ってあって。コロナが流行るまでは「なんか面白そうだね」って企業からお金が下りることもあったけど、コロナ禍では相当文脈を練り込まないといけない。
だから、そういうバックグラウンドを凄く叩き直したというか、「なぜ今この時代に、これをやる必要があるのか」っていうことを問い直しました。
──なるほど、それでずっと準備して、今クラウドファンディングを行っている、みたいな。
都築:そうですね。元々はオリンピックの聖火を意識していて、色々な企業から資金を頂いて聖火リレーと同じ時期(5月)にスペースバルーンを上げたかったんですけど。オリンピックが延期になりましたよね。
それで、「協賛企業がついてくれることはほぼ無いだろう」と思って。だったらオリンピックから完全に距離を置いてしまうというか、本当に「炎」として上げることにして、クラファンに切り替えたっていう感じです。
「”本当はやるもの”がなくなったからこそ集まれる」クラウドファンディングへ移行、多種多様な学生が集まることで生まれたものとは
(画像は編集部撮影)
──ということは、今かなりクラファンに力を入れてはいるけど、最初からクラファンを考えていたという訳ではないんですね。
都築:はい。実を言うと、2月の時点で「そもそもスペースバルーンを上げられないんじゃないか」という雰囲気が立ち込めていて。
「次年度やるか、やらないか」「そもそも中止になるかもしれない」。
「本当にやる?」……みたいな。最終決定を下さないといけなくなったんです。
──というと、3月時点ではいわゆる、結構な「崖っぷち」だった、と。
都築:あ、そうです本当に崖っぷちでした(笑)。3月4月は。あと5月もですね。
──じゃあ、かなりプロジェクト内では議論されましたよね……?
都築:めちゃくちゃ議論は重ねました。ただ当時はメンバーが10人前後しかいなかったんですよ。でも6月23日、ちなみにちょうどオリンピックデーだったんですけど(笑)、クラファンを始めてから、今日(8月23日)までで140人にまで増えました。
──え、2ヶ月で140人ですか!? めちゃくちゃ凄い……!しかも、今日でちょうどクラファン始めてから2ヶ月っていうのも何か運命感じますね(笑)。
都築:そうそうそう(笑)。でも、コロナで同じように困ってる学生っていっぱいいると思うんですよ。イベント中止になっちゃった学生団体って、実際にすごい沢山あるじゃないですか。学園祭もどんどん中止になってるし。だから「何かやりたい」とかはあるけど、できない、みたいな。「夢不足」っていうんですかね。そういう状態ですよね、今の学生って。
新入生も可哀想だし、大学3年生も可哀想だなって思うんですよね。大学3年生って自分たちの活躍の場を、と思って準備し続けて憧れたこの年がなくなったじゃないですか。延期じゃ済まない、中止という形で。
だからそれが、ELPにどんどん学生が集まってきてる大きな要因かもなと思いますね。未だかつてない規模だと思います。本当はやるものがなくなったからこそ集まれる、という。
しかも、物理的な距離はあってもオンラインで繋がれるので、そこは一つイノベーションなのかなと。
──イノベーションですね、まさに! その、いま色んな学生が集まってて、色んな形で関わってると思うんですけど、具体的に言うとどのように関わっているんでしょう?
都築:そうですね。すごく大きく言うと、まずスペースバルーンの開発をする「技術チーム」、それから企業との渉外係である「資金調達チーム」があって、SNSのムーブメントやブランディングを考えている「広報戦略チーム」があります。
──大きく分けてその3チームで、色んな学生が自分なりに活動しているみたいな。
都築:得意を活かしてますね。
技術で言えば、ロケットを開発しているサークルとか、スペースバルーンをもともと打ち上げてきたようなサークルの人たちが集まってきてくれたし、資金調達のところでも、日頃からスポンサーの費用とかをすごいいっぱい集めてくるような学生団体の人たちに入ってきてもらったし、広報戦略のところでも、イベント企画とかに慣れてたりとか、インフルエンサーの人とかが色々入ってきてくれてたりとか。
けっこう色んな分野から得意を寄せ集めてきてる感じもあるし、逆に得意がなかった学生とかも、そこですごい人たちから刺激を受けながら、どんどん成長していくような場面もいっぱい見られる感じですね。
──プロジェクト内でお互いに相乗効果が発揮されているんですね! 自分がもともと得意だったことをそのまま活かすこともできるし、改めて自分がどういうものが好きなのか、向いてるのかとかていうのを、見つけられるようなプロジェクトでもあるっていう。
都築:もう本当にその通りだと思います。僕も学びばかりです(笑)。
「夢を持つことは自分の生きる意味だった」──困難な境遇を乗り越え、プロジェクトに託す想い
──今まで3年間の印象に残る紆余曲折とか困難とか、そういうのってありますか?それと同時に、それをどうやって乗り越えてきたかみたいな。
都築:もう色々大変なことが起こり過ぎている部分はあるんですけど、一番はやっぱりコロナですね。全部変えなきゃいけなくなったので。あとは沢山やってくる学生たち、若者たちに、どういうふうに活動してもらうかとか、どうやって巻き込んでいこうかとか。そのあたりもどうすればいいかとかっていうのも、全部試行錯誤で。
今も、ずっと悩みっぱなしですね。
──毎日模索しながら行われているんですね。都築さんがそこまで頑張れる理由って、どこにあると思いますか?
都築:これはnoteでも書いたことなんですが、僕自身が、わりと困難な中で生き続けてきたっていうバックグラウンドがあって、まあ端的に言えば貧困家庭の出身なんですが。だから中卒するか高校進学するかっていうところから悩み始めて。小学校の頃から家の自営業の手伝いを深夜とかにして、そのままランドセル背負って小学校行くみたいな。
困難な生活をしていく中で、「夢を持つ」みたいなものは自分が生きていく意味だったし、そういう夢があったから、特待取って高校に行きました。
それで、色々あって大学にも進学できたんですけど……まあ、言ってしまえば東日本大震災で家が倒壊して、その保険金を使って、家の修復はローンにして、大学に進学みたいな感じなんですよね。だから、東日本大震災が無ければ僕は高卒で今頃牛乳配達をしてます。
でも、「次のステップに行きたい」という決断を一歩一歩してきたっていうのもあったから、そういう大変な中で夢を持つってすごい価値があるっていうことを知ってるというか。
逆境だからこそ夢を大事にしよう的なのが当たり前というか。そういうのは自分の中には多分あって、それが今回のプロジェクトを「コロナの中でも諦めない」っていうのが前提になっていたのは、多分あります。
「コロナでみんな先行き不透明になる、でも、だからこそきっと夢みたいなものが絶対必要になる瞬間が来る」っていうのは、自分のスタンスとしてはあったと思いますね。
(画像は編集部撮影。取材日・8月23日は都築さんの誕生日でもあるという)
──なるほど……何だかELPへの理念も、いま凄く腑に落ちた気がします。
都築:今まではずっと否定されるのが怖くて、(貧困家庭出身ということを)人には言ってこなかったんですけど。でも僕も自信を持てるようになって、やっとそれを言っていいような気がしました。
夢を持ち続けることってやっぱり人によってはすごいしんどいんですよね。僕も何回も折れかけたし、嫌だなって思うこともすごくいっぱいあったし。だからこそみんなで共有することが大事っていうか、「じゃあ、どうする?」って皆で問題を話し合えると全然違う。1人でコロナの中で夢を諦めないってすごい大変だけど、みんなで夢を追いかけようはできるじゃないですか。
だから今回のプロジェクトはそういう意味合いもあるし、それを分野の異なる人たちとか、色んな得意分野を持ってる人が集まってるということに、分断を超えていく可能性を感じています。それが、今回のプロジェクトに対して僕がかけてる想いですね。
──では、今後の展望というか、クラウドファンディングが成功して全部集まったとして、それでプロジェクトの方も次の段階に進むと思うんですけど、その炎を打ち上げるっていうこと以外にも最終的な目標とかってありますか?「副次的にこうなったらいい」みたいな。
都築:色々考えてるんですけど、正直なところ、今はクラファンを成功させることのみに集中してます。色んな施策はブレストで案として出てはいるけれど、クラファンに必要なものだけをそのいっぱい出てきたブレストの中から拾い上げて使ってるという感じでやっています、今は。
ただどうしてもやりたいことはいくつかあって、1つは打ち上げた機体や撮影した映像を科学館やプラネタリウムで流したいっていうのがあるんですね。未来の子供たちに、コロナの状況の中で、その時の若者たちが何をしたのかっていうことを残していきたいし、それを見た子供たちに夢を届けていきたいっていうのはすごくあります。
あとは、このムーブメントは今国内だけですが、世界中にも届くと良いなと。炎を宇宙に向けて飛ばすって、けっこう誰が聞いてもロマンがあって、わくわくしてくれるものでもあると考えてます。
「ELPのメンバーそれぞれで、見ている景色も違う」──企画/広報リーダー・石橋さん、営業/リターン担当・杉本さん
(画像は編集部撮影。左から杉本昂熙さん、都築さん、石橋拓真さん)
さらに、企画・広報リーダーの石橋拓真さん、営業・リターン考案担当の杉本昂熙さんにもお話を伺うことができたので、当日の空気感とともにお伝えする。
──よろしくお願いします!
都築:この人たち超面白いですよ!
石橋さん(以下、石橋):さっきからそればっかりで中身が無い(笑)。
──何というか、最初から思っていたんですけど、皆さんすごくアットホームな雰囲気ですね(笑)。まず石橋さんから、取り組んでいるお仕事の内容などお伺いしていいですか?
石橋:はい。まずELPが「炎」に着目した理由として、炎が歴史的に共生の証にも武器にもなり得てきたっていう文脈があったと思うんですけど、あのあたりの話を人類史の本から拝借して、コンセプトを磨くお手伝いをしたのが最初の仕事でした。
もっと言えば「宇宙開発において炎がどういう意味を持つのか」「国際平和の中で、炎を使った宇宙開発がどういう意味合いなのか」ということですね。かっちりと担当の部局が決まっているという訳ではなく、現に僕も色んな仕事を掛け持ちしてます。で、杉本くんは法人営業が中心で、あと……。
杉本さん(以下、杉本):そうですね、あとは記事執筆だったり、クラウドファンディングの設計部分のところでリターン設置とかだったり。法人営業に関して言えば、ドリームサポーターの方を連れてくるのも僕の担当です。
都築:クラファンってすごい流動的なので、常に一人何役も持っている感じですね。
石橋:うん。常に人が入り続けているし、離脱しなきゃいけない人もいるし、フェーズごとにやらなきゃいけないこともあるし、手探りだからトライ&エラーを繰り返さなきゃいけない。イベントとしての新規企画もそうですし、SNSキャンペーンという形での新規企画もそうですし、すごく短いスパンで「立てて潰して」を繰り返していますね。
(画像は編集部撮影。取材当日の作業風景)
──本当に全てが学生主体で動いてることを実感します……!
都築:ELPのメンバーそれぞれが見てる景色ってみんな違うから、それを話しても良いんじゃない?
──あ、そうですね!是非お聞きできれば。
石橋:あ、そうですね。えっと、これはクラファンページにもHPにも載せていない僕個人の話なんですけど、純粋に宇宙開発から見て「炎を宇宙に掲げる」というのが共生とか分断を抜きにしたときどう見えるか、っていうのも個人的にはすごくアツいと思っています。
というのは、「宇宙が仕事のための空間ではなく、本当に”生活のための空間になる”こと」です。宇宙開発において炎を扱うことはタブーとされていたんですよ。アポロ初号機の事故がきっかけで、調理や科学実験などいかなる場面でも、安全工学上、宇宙では火は使えないことになっています。
これは宇宙開発分野の人たちに言うと言語道断って言われると思うんですけど、僕の個人的な考え方としては、その考え方のシフトが必要だなと思っていて。「安全上の観点から火を使わない」のではなく、前提として「火を使おう」というところから始め、そして安全に使うためにどうすればいいかっていう逆の発想をしてみて、そこでやっと見える景色を実現する技術があると思うんです。
発想を逆転させることによって、初めて宇宙が本当に「仕事の場所から生活の場所」に変わるんじゃないかという風に思っています。その意味で、宇宙に炎を持っていくELPは、1つのきっかけになるというか。
──なるほど、じゃあ今までの固定観念や前提に風穴を開ける、というのが石橋さんの目標というか、ELPを続ける一つの意義なんですね。
石橋:そうですね。
──杉本さんはいかがでしょう?
杉本:僕は、自分自身がこのプロジェクトに意味を持ってることが、わりと内向きというか、ELPに関わること自体の意味がけっこう大きいなと思っています。
「宇宙」というのも、全然自分が触れる分野じゃないなと思っていたので(笑)。当初は炎を飛ばすっていう部分の「炎」に関しても、そんなに知識があるわけではなかったから、「プロジェクトが面白そう」とか、「やってる人たちって面白そう」という理由から自分は入ったんですよ。クラウドファンディングに切り替えるという話になったとき、おりがみ内で都築さんが「ヘルプ!」的な感じで話しかけてきてくれて。
「ちょっとやろうかな~」程度に思いながら入ったんですけど、そしたらやっていく内にどんどんのめりこんじゃって。
最初はクラウドファンディングの設計部分、つまりどういうものをリターンとして設計すればいいか、というところで関わってたんですけど。今は法人協賛とか記事執筆とか、内部レクリエーションを作る、みたいなチームを率いてます。
──凄いですね! 最初はクラファンのリターン設置だったけど、どんどん仕事の幅が広くなっていったという感じでしょうか。
杉本:はい(笑)。ELPには世界一規模が大きい学生団体(AIESEC)の日本支部代表をやっていたすごい方もいるし、大阪万博を日本に誘致した人とか、そこらへんにもうゴロゴロ「転がってる」んですよ、すごい人たちが。
都築さんが紹介してくれる方々が本当に魅力的な人が多くて、色々と学ぶことがすごく沢山あるので、色んな部分に関われば関わるほど楽しくなってくるっていうのが、自分的にはやっていて意味があるなって思ってることです。
ELP自体が、下向きな大学生たちが「今やること・やれること」として関われるようなプロジェクトになってるなあって最近すごく実感してて。そこが、共生とか、大学生が今挑戦できないっていう「意欲と現状の分断」を縮めている、っていうのがELPの価値だなという風に思ってます。
──自分の得意なことを活かすことと、自分が興味無かったものに対して新しく自分の向いてることとか好きだなと思うことを発見できるっていうのが、まさに都築さんの話に出ていました。
石橋:あと2つほど補足をすると、僕がこのプロジェクトを面白いなって思ってるのは、見た目「宇宙プロジェクト」っぽい感じがしてるんですけど、メンバー内で今まで宇宙開発に関心を持って取り組んできた人ってすごい少ないんですよね。他の宇宙開発分野で活動している学生も「結局、団体には宇宙好きしか集まってこない」みたいな課題をすごく持っている中で、ELPはその課題を難なくクリアしているというか。
それから、かなり多くのステークホルダーを巻き込んでいる。当然ながらクラファンって応援をたくさんしてもらうじゃないですか。言葉で応援してくれる人もいれば、シェアをしてくれる人もいて、お金を入れてくれる人もいて、あるいは高い立場を持つ身ではあるけど、その立場の名前を貸してくれる人もいて。
いろんな形で今まで自分が付き合ってきた人たち、大切にしてきた人たちがクレジットを切ってくれていて。やりたいって自分が言ってることに対してそういう重みのある応援をしてくれる人がたくさんいるっていうことがどんどん積み重なっていくと、もはや礼儀として止まることができない、というのがありますね。
クラファンによって色々な人にお願いをするっていうのを、信頼貯金を減らさずにむしろ増やすためには、ひたすら前のめりにこのプロジェクトに向かっていくしかないんですよね。その姿勢が作られていくのが、僕が思うELPの2つ目の価値だなと思っています。
都築:まあ、本当にクラファンやって学んだことは多いですね。僕は今回使った信頼貯金みたいなところは、多分プロジェクトが成功した瞬間に全然話が変わってくると思う。減った分は、成功したら「こいつは成功するやつだ」ってなる。
石橋:冷静に考えて、経済状況からして個人も法人もお金の状況が思わしくないという一方で、クラウドファンディングの数はめちゃくちゃ増えてるじゃないですか。それを考えると、「難しいのはまあ当然なんだな」って思いますね。
杉本:でも、連絡取るきっかけになるのは良いですよね。Facebookとかで、半年ぶりくらいに「久しぶり」みたいな人もいて。あとは、クラウドファンディングもお金だけじゃなくてシェアで認知度を上げてくれたほうが、やっぱり自分たちとしては動きやすいなあっていうのは少しありますね。
必ずしも「お金をください」って言うだけじゃなくて、「応援してほしいです」って伝えて、理念に共感したらお金を入れてくれるという風に。
いろんな応援の仕方があるので、仮に「金額が大きくて無理」ってなっても、「シェアはぜひ協力させてほしい」と言われることはあります。それはそれで、お金は入らないけど、でも応援してくれるっていうのがすごく嬉しくて。最近そういう形が多いなって思います。
──必ずしもプロジェクトの目標達成だけじゃなくて、その過程の中で様々な学びや成果が生まれている、というのが本当に素敵だと思います。
おわりに|一人では何もできなくても、若者同士が集まることで大きな前進になる。
(画像はクラウドファンディングページより)
今回は、Earth Light Projectメンバーの3名に、自分がプロジェクトを行う意義やストーリーを伺った。終始メンバー同士で和気あいあいとした雰囲気であり、取材中にもマイクの外で様々なアイデアが飛び交い、とてもクリエイティブな空間だった。
現在、ELPはパッションに溢れた大学生、大学院生、また社会人を含めた総勢140人以上で歩み続けている。
目下の目標は、元々のプロジェクトの方針を大きく転換させた末に導かれた、「わずか2ヶ月間のクラウドファンディングで、750万円集める」ということ。「このプロジェクトを名刺代わりにして、自分の新しい未来を切り開く人も絶対にいると思います」。都築さんはELPの存在意義の1つをそう語った。
「それでも、世界が繋がることをあきらめない」。
9/6開催の「Earth Light Day」では、学生メンバーたち自身が、共生への意識や分断など様々な話題をディスカッション。いつか世界の夜明けを迎え、国境のない宇宙に炎を掲げることを夢見て進み続ける彼らの姿は、まさに情熱に満ち溢れている。
▶ELPのクラウドファンディングは「9月16日」まで開催中。
(写真/百舌鳥、文/一年明日)
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