【失われた春を求めて】コロナ禍の大学生だからこそ観たい春映画特集

こんにちは!
そろそろ寒くなってきたので「心温まるクリスマス映画特集」なんてものを組んでみたいと考えましたが、よく考えると今はコロナで外出自粛。要するにみんな「クリぼっち」になることは目に見えていますよね。
こんな時にあったか〜いクリスマス映画なんて見たら、「なんで俺一人で映画なんて見てるんだろう?」って寂しくなります。心温まるどころか、興冷めです!
なので今回は、今年(2020年)はコロナ禍で春を迎えることのできなかった新入生はじめ全ての大学生に向けて、来年の春が恋しくなるようなオススメ春映画をご紹介します。来年こそ春よ、こい!(ユーミン風)
1. 四月物語[監督:岩井俊二]

出典:岩井俊二映画祭
まずは『Love Letter』『花とアリス』などで知られる岩井俊二監督の『四月物語』(1998)です。
彼の作品は、90年代のドヤ街を舞台に無国籍風の世界観を描いた『スワロウテイル』や、中学生の残酷さをインターネット小説の世界観で描いた『リリイシュシュのすべて』など、「岩井美学」とも言われるエキセントリックな映像手法で、カルト的な人気を誇っています。
この『四月物語』は60分程度の短い作品で、監督自身も「小さな映画を作りたかった」と言っている通り、かなり見やすい作品となっています。
おすすめポイント① — 新入生がみんな味わう「チグハグ感」
この『四月物語』で描かれているのは、ずばり「新生活を始めるフレッシャーズのチグハグ感」です。当時21歳の松たか子さんが演じる卯月は、北海道から武蔵野の大学に入学します。実際のロケ地も国立で、閑静な住宅街と桜並木がなんともきれいです。
物語は春、初めての一人暮らしをする卯月がアパートへ引越す場面から始まります。「手伝った方がいいのかな?」「この荷物は本当に必要だったのかな?」とソワソワしてしまう松たか子さんの演技が、なんとも愛らしいです(ちなみに筆者は松たか子さんがブレイクした理由は、この「いつもソワソワしておせっかいで、ちょっと抜けている」キャラにあるのだと確信しています。ドラマの『HERO』なんかでもそうですよね)。
その後、桜満開のキャンパスで入学式を終えた卯月は、新歓の勢いに圧倒されます。20年以上経っても、この大学の雰囲気は変わりませんね。授業の自己紹介でタジタジする新入生や、無理やりボケて目立とうとする新入生も、昔と変わりません。見ていて恥ずかしくなってしまうような大学生の初々しさが、ここに描かれています。
おすすめポイント② — イケてない大学生の孤独
大学に馴染めない卯月は、静かな本屋でバイトを始め、1人で映画を見に行くようになります。本屋でお客さんの対応に困ったり、映画館で嫌な観客が隣に来たりしても、そばで「大丈夫?」と声を掛けてくれる人は誰もいません。
卯月の姿は、青春の「イケてるサイド」につくか「地味なサイド」につくかという、いわば「キャンパスヒエラルキー」の残酷な分岐点を感じさせます。
色んな学生やサークルを横目に見ながらも、結局は自分に合った環境が見つからず「私のキャンパスライフは、こんなはずじゃなかったのに!」と泣きたくなる大学生も多いでしょう…。
おすすめポイント③ — 主人公・卯月の「秘密」
物語が終盤に差し掛かってくるにつて、卯月のある「秘密」が明かされていきます。しかしそれは、大学のまだ付き合いが浅い人間に打ち明けられるほど簡単な「秘密」ではありません。
彼女の「秘密」とは、一体なんでしょうか?
皆さんも、四月に新しく出逢った人に趣味は何か、出身地はどこか、という話をすると思います。その後に深い「秘密」の話ができるようになるまでは、かなりの時間がかかります。しかし私たちは、ほんの一瞬話しただけで、その相手の人となりを分かったかのような気になってしまいます。
一人の人間が歩んできた人生の重みを理解するのは、容易ではありません。この『四月物語』は、これから出逢う人全員に秘密の「青春」があるかもしれないと予感させてくれる、素敵な映画です。
2. 四月の永い夢[監督:中川龍太郎]

次も「四月」が舞台の邦画です。日本は四季がある稀有な国ですが、「四月に新生活を始める」という日本独自の季節感が、しばしば作品のテーマとして取り上げられます。最近では『四月は君の嘘』(2016)や『秒速5センチメートル』(2007)なんかがそうですよね。
おすすめポイント① — 世界で評価された「瑞々しい」感性
『四月の永い夢』(2017)は、当時27歳の若手・中川龍太郎監督の瑞々しい感性が評価され、四大映画祭の一つであるモスクワ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞しました。
この作品で表現されている「四月」は、先ほどの『四月物語』とは異なり、永く終わることのない、かといって何も始まることのない「止まった季節」として描かれます。
冒頭のアヴァンタイトルで、喪服を着た主人公・初海(朝倉あき)は目を見張るように美しい桜と黄色い菜の花に囲まれて、こう人生を回顧します。
“ 大学生になって、わたしは東京に出てきた 四月の日差しに絆されて、わたしはようやく恋を得た とても不思議な人だった 決して、目を合わせようとしない人だった けれども、とても優しい人だった それからどれくらい経っただろう? いつのまにか、わたしは窓の外の山々を夢見ることなく いつのまにか、わたしは遠い知らない街を夢見ることなく 詩の書き方さえ、机の中に閉まってしまった ふと目を覚ますと、わたしの世界は真っ白なまま 醒めない夢を漂うような、曖昧な春の日差しに閉ざされて 私はずっと、その四月の中にいた ” |
引用:映画本編
実は、詩人としても活動している中川監督のスマートな言葉選び脱帽します。それに加え、バックでは透き通ったフルートとヴァイオリンの旋律が響き、『かぐや姫の物語』の声も演じていた朝倉あきさんの切なげな声が混じり合っています。筆者は思わず恍惚としてしまいました。
おすすめポイント② — 過去を引きずってしまう女性の視点
先ほど紹介した冒頭の場面からも分かる通り、初海は過去の「四月」の記憶を引きずったまま、次のステップを踏み出せずにいます。
二十代も後半に差し掛かり、いつまでも若くいられない寂しさを抱えている彼女は、それでも毎年かならず巡ってくる春の景色に胸を痛くします。女優として一時は活動を休止し、今後の進退について思い悩んでいた朝倉あきさんの心情とも重なります。
失った時間や人を取り戻すことはできませんが、それでも遍く人は年老いて亡くなるまで、繰り返し同じ季節を経験することになります。
今年(2020年)はコロナの影響で、ほとんどの大学生の「四月」が失われました。来年も新しい「四月」が巡り、その次の年もは別の「四月」が巡り、そのようにしてわたしたちは、息をつく暇もないまま「大人」を演じなくてはならないのです。
この物語の初海は、どのようにして次の「四月」を迎えるのでしょうか?人の心を明るくし「元気な明日を迎えよう」と思わせてくれる彼女の素敵な笑顔を、あなたも体験してみませんか?
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3. 細雪[監督:市川崑]※ネタバレあり

出典:日本経済新聞
最後は、「こいさん、頼むわ。」の冒頭で有名な谷崎潤一郎の同名小説が原作の、『細雪』(1983)をご紹介します。「四月」縛りではありません。
『細雪』はこれまで3回に渡って映画化されましたが、中でも筆者が好きな市川崑(いちかわこん)ver.をご紹介します。吉永小百合や石坂浩二をはじめ、昭和を代表する俳優陣が集結した超大作です。
おすすめポイント① — 「市川マジック」の映像美
市川崑は代表作『ビルマの竪琴』(1956)や『おとうと』(1960)、さらには東京オリンピックの記録映画『東京オリンピック』(1965)などで知られています。テレビドラマの製作者としても知られ、時代劇やメロドラマ、さらにはコメディやミステリーといった幅広いジャンルの演出を手掛けてきました。
そのなかでも優雅なスローモーション演出や、細かいカット割りなどの美しい映像手法は「市川マジック」と呼ばれ、人々の目を釘付けにしてきました。
本作『細雪』でも、随所にその「市川マジック」が見られます。特に冒頭の会話シーンや花見のシーン、終盤の降雪シーンなどは目を見張るものがありますし、袴の着付けシーンなども『源氏物語』のドラマを手掛けた市川ならではの素晴らしい演出でした。
おすすめポイント② — 原作に忠実な生活様式
『細雪』は、谷崎の身の回りの出来事を元に描かれた小説ですが、映画版では次女・幸子のモデルである谷崎松子(谷崎の妻)がアドバイザーを務めています。
だからこそ原作に忠実で、幾度も縁談が運んでは流れてしまう三女・雪子(吉永小百合)と自由奔放で進歩的な愛を貫く末女・妙子(古手川祐子)を巡り、血縁に縛られた大阪の四姉妹とその入婿らの戦前の生活様式が、見事に反映されています。
また、鏡越しに「こいさん(妙子)」を呼ぶ冒頭シーンや、妙子がラジオを聴くために風呂の扉を開けっ放しにするシーン、雪子の足がチラリ露出する谷崎らしいシーンなど、原作でも定番のシーンがいくつも登場します。
原作は上・中・下の三巻に別れているぶん、阪神大水害や、板橋という男の魅力、山村舞を踊る妙子など、ややデフォルメされて描かれている印象は否めません。なので原作を読んだ上で、それがどう市川崑的な二時間の映画に収められているのかを楽しむのがオススメです。
筆者としては、下女の「お春どん」の間が抜けた演技や、鮎の養殖を手掛ける縁談相手の台詞などユーモア溢れるシーンが、市川崑らしくて好きでした。複雑な面持ちで「ふん……」と神妙に相槌を打ちつつも、自分の恋愛観や家族愛を決して裏切らない雪子(吉永小百合)の強かな表情などは、原作には無い映画ならではの魅力だと思っています。
おすすめポイント③ — 京都の「春」に捧げる別れの季節
この物語では、四姉妹で「春の京都へ花見をする」という行事が、毎年の恒例なっています。
だからこそ京都の桜は、彼女たちにどんな家系の事情があっても、いつも同じ場所・絆に引き合わせてくれる、普遍的な美しさを持った存在として描かれているのです。
縁談に悩んでいた雪子は物語の終盤になり、ようやく尊敬できる「良き理解者」と巡りあうことができます。トラブルメイカーの妙子も正義感の強い見吉という男と結ばれ、自分の家庭を持つことを決心します。ずっと大阪に本家の拘っていた長女・鶴子も、夫の東京行きに得心するようになります。
四姉妹それぞれが異なる所帯を持つにつれて、彼女たちは必然的に散り散りになってしまうのです。
映画のラスト、東京へ向かう鶴子が「今年は、兄妹揃って京都へ花見に行けへんな」と言って、涙を流します。彼女たちを同じ場所・絆に引き合わせてくれた京都の桜は、もう見れなくなってしまうのです。冬の大阪駅、兄妹たちは優しく散る細雪に降り込められながら、別れを告げました……。
恋愛結婚がありえない時代の日本で、古い家系や式たりに縛られた彼女たちの苦労が痛ましいほど繊細に描かれた、珠玉の一作です!
まとめ
以上3本の「春映画」をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
ちなみに「春映画」というと、一般的には春の公開される『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』、『名探偵コナン』や『仮面ライダー』シリーズなど、春に公開される定番子供向け映画のことを指すらしいですね。今年(2020)は、どの映画の公開も夏に延ばされてしまいました。
これを読んでいる、特に新入生の方が、一つでも多くの素晴らしい「春映画」に巡り合えることを祈っております!
(文/じの)