【新時代の映画監督】濱口竜介のインディース3作を紹介
ある人は、こう言いました。
「邦画の未来は濱口監督にかかっている。」
”濱口竜介”監督は今、世界で最も評価されている映画監督の一人です。
今年公開された『ドライブ・マイ・カー』(2021)ではカンヌ映画祭の脚本賞(日本初)を受賞し、センセーションを巻き起こしました。
今年度のアカデミー外国語映画賞の候補にも先出され、破竹の勢いで評価されています。
元々濱口監督は日本のインディペント映画界隈で名を轟かせ、そのあまりに成熟した演出力で世界の映画祭を席巻してきました。
ただキャリア13年にして監督を担当した商業映画は3作のみ、それも地方のシネマ・コンプレックスでもかかっていない映画がほとんどなので、その名前を知らない人も多いのではないでしょうか。
今回は筆者が最も敬愛する映画監督の一人である濱口監督の、インディース映画3本を厳選してご紹介します。
映画好きな方もそうでない方も、ぜひ読んでみてほしいです!
1.『PASSION』(2008)
最初に紹介するのは、濱口監督の『PASSION』。
この作品は東京芸術大学大学院映像研究科に在籍していた濱口監督の修了制作となった作品です。
この作品は大学の修了制作展に出品されたほか、アジアを中心に世界中の映画を紹介する、第9回東京フィルメックスのコンペ部門に選出され、スペインのサン・セバスチャン国際映画祭でも高い評価を得ました。
この『PASSION』の特徴、もとい濱口監督の一貫した映画のテーマは”コミュニケーション”と”本音”の二つであるように思えます。
人間がどのように誰かと”コミュニケーション”しながら生活し、目標を決めてゆくか、その裏にはどんな”本音”が潜んでいるか。
濱口監督の作品には、それらが見事に立体的に組み立てられていきます。
『PASSION』ではアラサーを目前にした大学の同期が久々に集まり、ある二人は結婚を決め、期せずして男の側の浮気がバレます。ただその浮気相手にも別の男との関係があって……。
こうして繰り広げられる6人の男女の群像劇には、必ずしも恋愛に止まらない途方もないコミュニケーションの連続と、その背後に複雑な本音が展開します。
物語の途中で嘘を言ってはいけない「真実ゲーム」が繰り広げられますが、我々が普段からいかに嘘と本音を織り交ぜながらコミュニケーションを行っているかを垣間見ることができるんです。
誰かのありふれた言葉や振る舞いには、自分には見えない”本音”が広がっている。
プレミアでなかなか見ることが難しい映画ですが、学生時代から確固たる作家性を発揮していた濱口監督の傑作です!
2.親密さ(2012)
次に紹介するのは『親密さ』です。こちらの作品は、濱口監督が講義を受け持っていたENBUゼミナールの映像俳優コースの卒業制作で、全3部構成・255分にも及ぶ大作です。
この作品の1番の特徴は、なんと言っても挑戦的かつ有機的な3部構成にあるでしょう。
1部では演劇をしている——多くは至って平坦な——若者等の青々しい葛藤、2部ではすったもんだの挙句完成した彼らの演劇本編、3部ではそのごく短い後日談が描かれます。
完成した2時間弱の演劇が、丸ごと映画のワンパートになっている構成などを聞いたことがあるでしょうか?
劇はそれ自体で完成しつつも、1部で演者の人間関係が描かれていたことで、重層的になっています。
また3部で元の現実に戻ることで、最終的には演者としての登場人物ではなく、彼ら自身にフォーカスが当てられる設計になっています。
タイトルの「親密さ」にはどういう意味が込められているのか?
若い人間が「親密である」ことにはどういう意味があるのか?
人は人とコミュニケーションを図り、時に本音を隠し、時に剥き出しにしながら生きてゆきます。
でも私たちは結局のところ、誰かと出会い、別れ、再び巡り会いながらも、ずっと「親密」でいられる間柄を追い求め続けているのではないでしょうか。
そんなことを感じさせる、濱口監督の珠玉の一作です。
3. ハッピーアワー(2015)
最後に紹介するのは『ハッピーアワー』です。
特にこの作品は、筆者がこれまで見た邦画の中でも屈指の傑作だと思っています。
『ハッピーアワー』は神戸で演技ワークショップに参加した未経験者4人(田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら)を主演に迎えています。
彼女達は演技未経験であるにも関わらず、スイスの第68回ロカルノ国際映画祭・国際コンペ部門にて最優秀女優賞を受賞しましました。
未経験であるからこそ、飾り気のない自然な演技が、日常に生きる夫婦の生写しとなったのです。
私がまとめたあらすじは以下のような感じです。
神戸市で暮らす彼女達はお互いを尊重しながら、頻繁に食事や旅行にいく仲。
しかし彼女達に巡り合わせた謎のワークショップ、ある女性の離婚調停、有馬の温泉旅行、朗読会……それらを超えた先に待っていた、とある夜(ハッピーアワー)から、彼女達の人生は動き出す。果たして彼女たちは、どのような未来を選択するのか。
人生とは何か、結婚とは何か、責任と何か、我々はどう本音を隠しながら、前向きに人間とコミュニケーションを取れば良いのか、嫌になったら何もかも捨てて良いのか。
4人の主婦達が繰り広げる群像劇には、これから私たちが経験するであろう人生の段階が切り取られているのです。
『ドライブ・マイ・カー』に並び、濱口監督の最高傑作との呼び声も高い一作です!
来冬公開『偶然と想像』を観に行こう!
以上で、私が特に推したい濱口監督の3作の紹介を終えたいと思います。
他にも脚本を勤めた『スパイの妻』(2020)や商業デビュー作『寝ても覚めても』などオススメしたい作品はたくさんあります。
ただ私は個人的には、”コミュニケーション”と”本音”が主題として描かれる初期作の方が好きです。
来冬には濱口監督の短編集『偶然と想像』(2021)が公開されます。
ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した本作は、10月の第22回「東京フィルメックス」でオープニング上映され、観客賞を受賞しました。筆者も会場に観てきたのですが、まさに記事で言及した”コミュニケーション”と”本音”がここに極まれり、といった短編集でした。
私は今後も濱口監督の動向を追っていきたいと思います。
みなさんもぜひ、今回紹介した3本も含めて、濱口監督の作品を観てみてくださいね!
(文/じの)