「どらまの生息地」小劇場レポート③大学生、演劇を語る
大学生の演劇文化を紹介する連載『どらまの生息地』。
第3回目も、早稲田大学小劇場どらま館主催の新歓企画『どらま館の歓待』を取材させていただきました。
今回のイベントは、題して『どら通「会議室」を再演する』。
「どら通」とは、どらま館が発行している小冊子のことです。
2021年3月、コロナ禍で制作された特別号では、オンライン会議の内容が掲載されています。8つの早稲田演劇サークルが、それぞれ「演劇のこれから」について話し合うという、非常に興味深いものになっています。
『どら通「会議室」を再演する』の面白い特徴は、その特別号を演劇の台本のように読みなおすというところです。さらに、読み手を担うのは、なんと新たなサークル員。
全8回、毎回異なるサークルが登場し、約1年前の会議を「再演」します。
筆者が取材に伺ったこの日、「劇団てあとろ50’」のメンバーである、さかいさん、かつみさん、はなさん、企画者の浜田さんが集まっていました。
早稲田の演劇サークルは、コロナ禍で公演ができない中、何を考えて過ごしていたのか。そして、先輩たちの苦しい時期を、「再演」という形で追体験する現サークルメンバーは、その思いをどのように受け止めるのか。
この記事では、『どら通「会議室」を再演する』の様子の一部を、写真と共にお伝えします!
『どら通「会議室」を再演する』
(以下、敬称略)
浜田:まず、僕の方から皆さんに企画の説明をします。
2021年3月時点では、まだ稽古場とか劇場の利用制限が厳しい時期だったので、どのサークルも新歓の見通しが立たず、「どうしよう」という状況だったんです。どらま館としては手伝いたいけど、新歓として出すものがない。だから、せめて「出すものがない」という悩みだけでも喋ろうと、各サークルで集まって喋ってもらったわけです。
一応「5年、10年後の自分たちのサークル」というテーマをつけました。なぜかというと、そのときはコロナ対策がもっと厳しい時期だったので、来週の稽古をどうするかで皆いっぱいいっぱいだったからです。こんなタイミングでもない限り、5年後、10年後の話をしない。だけど、コロナ禍の決断は5年後、10年後に必ず響いてくると思うんです。だから、せめてこの機会だけは先の話をしようと思い、この冊子にまとめました。
今回『どら通「会議室」を再演する』では、先輩方に会議をしてもらってからほぼ一年経ったので、次世代の人たちにその議事録を読んでもらって、感想や意見を言っていただきます。役割分担は…
さかい:私が奥山さん役で。
かつみ:私が笹倉さん。
はな:私が高富さん。
どら通「会議室」再演 その一
奥山:去年一年間は多分、例年とは全然違う活動になったと思うけど、それを受けて感想とかある?
笹倉:出演予定だった舞台の中止が相次いで、演劇に対するモチベーションの維持が難しい一年だったかなと思います。
奥山:わかる!演劇をすることのハードルがすごく上がったなと思ってる。稽古場に集まるだけでも気を張らないといけなくなったし、公演するのも大変で、結局お客さんも一回も呼べなかったし…。今まで軽い気持ちでやれてたことが、頑張らないとできないことになっちゃったな。それがしんどかったなって私も思います。
高富:スタッフとしても経験を積む場が極端になくなっていて、(美術の)パネルを立てられなくて全部素舞台になったりした…。
奥山:そうだよね、私たち全員2年代だけど、2年代まるごとなくなったみたいだね。入団したと思ったらもう「今」。
(中略)
奥山:うん…。私何かやりたんだよね。
笹倉:いいことだね。
奥山:そう、演劇をやることがすごく大変なことになってるから、モチベは低くなりやすい。でもだからこそ、劇場があるからやらなきゃとか、演劇しなきゃっていう義務感で動くことが去年一年間多かったって反省してる。そうじゃなくて、もっと根本的に私は演劇がやりたくてやってるんだという思いを来年は大事にしていきたいな。そういう思いのある人の集まりとして、てあとろが進んでいって欲しいと思う。
高富:会社じゃないもんね。やりたい人が集まってるからサークルのはずだもんね。
奥山:そこが薄れてたなって思う、個人的には。
〜再演終了〜
浜田:…どうでしたか?
さかい:私たちは全員3年生なんですけど、「てあとろ」では2年代として活動したので、「消えた一年」という感覚はよく分かります。
かつみ:1年生の時、コロナが流行り出したので…
はな:何かしたくてもできない。そもそも地元にいて、東京来れてなかったりとか。
かつみ:それで私は一年入部するのが遅れて、今、下級生と一緒に2年代としてやっているんです。
浜田:なるほど。じゃあ、順当に行けば3年代だったんですね。
はな:先輩方から、「新歓は大変だった」っていう話をよく聞くんですけど、いやー、入れなかった側も辛い。
さかい、かつみ:確かに!
*
浜田:後輩から見て先輩たちの印象はどうですか?
かつみ:いや、もう「てあとろ」という場所を残してくれたことがありがたい。
さかい:今になってそう思います。
はな:試演会のときかな、舞台裏のところに「てあとろに入ってくれてありがとう」って、サプライズで書いてあって。
さかい:そういうことするんですよ。
浜田:それは紙とかに書いてあったってことですか?
はな:木のパネルに。(どら通を読んで)こういう思いがあったんだなぁ。
どら通「会議室」再演 その二
高富:新歓のオンラインワークショップで、エチュード(即興劇)できないかな。電話しているという設定で、エチュードをしますというのはどうだろう。新しい形のエチュードを生み出そうぜ。
奥山:かっこいい!
笹倉:なるほどね、電話するバージョン。それならオンラインでもできそう。
奥山:なんというか、私は今まで公演ありきで演劇をやってたから、それができなくなっても楽しいと思ってもらえるのかな。
笹倉:公演ができる分からないのに稽古することはあったけど、あれは確かに辛いものがある。
奥山:公演のためじゃない演劇活動ってなんだろうね。難しい。でも、公演がなくても楽しいと思える稽古場作りは大事だと思う。ワークショップも然り、その期間それが楽しいと思えるかどうかじゃないですか。 どうやったら楽しいと思う?
笹倉:そのワークショップを主催する側が楽しんでたら、楽しいのかな。みんな演劇が好きで。
高富:そうだよ、多分そう。
奥山:公演があっても、稽古場がつまらなかったら絶対楽しくないじゃん。 楽しいとか演劇が好きだという気持ちを私たち側が持っているのが大事。 そしたら公演がなくてもこの環境が良いと思ってもらえるんじゃないだろうか。公演があるに越したことはないけどね。
〜再演終了〜
浜田:てあとろは会議が多いイメージがあります。しかも稽古外で。
かつみ:やっぱり人数が少ないからこそ、話し合うことが多いかも。なんか稽古外で話すのが重要なことってない?帰りにラーメン食べながらとか。
さかい:そうかもね。
かつみ:他の時間を割いてやったり、授業の合間にやったり。
浜田:外野からの意見なんですけど、新人公演って、会議の場面が登場する作品が多いんですよね。新人訓練として、新人同士で何度も話し合って、それを見た先輩が脚本を書く。だからみんな揉めて、話し合っている場面が多い。僕は、「今年の新人は何を話し合ってるのかな」って、てあとろに見に行く。
はな:本当だ!
かつみ:それが新人試演会に表れてるっていう。
浜田:そうそう、新人試演会は話し合って、揉めて、それでも少しずつ前に進むという過程をテーマにした作品が多い。もちろん毎年違うこともありますけど。
かつみ:そうですよね。「ぶつかる」とか「面と向かって話し合う」とかっていうのが…
さかい:表れてたよね!
はな:てあとろに入ってから、「人間見てるなぁ」って気がすごくします。好きなところも嫌なところも、良いところも悪いところも、一緒になって見えてくる。
かつみ:人間くさいよね。
はな:それがしんどくもあり、楽しくもあり。話し合いとかも、それで多くなっているかもしれないですね。
イベントを振り返って
浜田:全体を通して、どうでしたか?
はな:今日どら通を読んで、いろんな話をして、自分の考えていることが改めて分かったので、ありがたい機会だったなと思いました。
さかい:なんか切なくなりましたね。まだ出会っていない頃の先輩たちが話していたことが「ああ、そうだよね」って共感したので。コロナ禍の大変さは聞いていたんですが、本当に悩んでたんだなと、すごく感じました。
かつみ:見学を受けているときは、辛さとか大変なものを、あまり表に出してなかったんだろうな、頑張ってくれてたんだなというのが文面から伝わってきました。「48期入ってきてくれてありがとう」と言われることがあるんですが、逆ですっていう気持ちがすごくあります。今度は私たちが新人を迎える側なので、重荷はありますけど、その気持ちを受け継いでいけたらと改めて思いました。
浜田:てあとろ50’のみなさん、本当にありがとうございました!
コロナ禍の演劇青年たちの思いを、時を越えて伝える
今回は、1年前のサークル内会議を、新たなメンバーで「再演」するという、少し変わった新歓を紹介しました。
この企画の特徴は、現在のサークル員だけでなく、コロナ禍のサークル員の様子まで、時を越えて伝えることができるという部分にあると思います。
イベント中では、去年は、「3人まで」という厳しい入室制限があり、部室のドアを開け、4人目は外からセリフを言っていた、というお話もありました。これはちょっと可笑しくもあり、切なくもあるエピソードです。他にも、そのようなエピソードが「どら通」の議事録で語られています。
そのような1年前のサークルのリアルな話を今「再演」という形で追体験できるのは、イベントに参加した後輩、そして新入生にとって非常に意義深かったと思います。
困難な時期に、各団体が何を考えるか、どのように行動するかということは、その団体のあり方において、本質的な部分を表し得るからです。
てあとろ50‘に限らず、現存する演劇サークルは、同じような困難を、それぞれのやり方で乗り越えてきたのだと思います。それを実感できたイベントでした。
現在、『どら通「会議室」を再演する』のアーカイブ動画が公開されています。以下のWebページに視聴予約フォームがあるので、今回参加できなかった方、どらま館や早稲田演劇に興味をもった方は、ぜひご覧ください。
▽どらま館note▽
https://note.com/waseda_dramakan/n/n73b55c4fcb3d?magazine_key=m7269ce602d9a
(取材・文 とり)